牛島選手の追っかけを辞めたい。 | ナノ

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友人(影山夢主)ちゃんから、若利くんが引退すると聞かされて一週間。全く仕事も手につかないし、海外移籍してからは出来るだけ若利くんの試合はネットで見てたけどもう生で見れなくなるなんて。わかってる、もう何年も観に行ってないくせに引退試合だけ行くなんて調子いいことしちゃいけないし、出来ない。でも、やっぱり、なんてことを考えているうちに一週間も経ってしまった。

「牛島選手、引退試合はこっちでするって」
「そ、っか...」
「飛雄くんがなまえちゃんの分もチケット取ってくれるって」
「うん...」

若利くんが引退を決めた理由は、年齢の限界もあるけどバレー業界をさらに盛り上げるために指導者に回るって話も聞いた。日本に帰ってきて、引退試合が終わったら地元に戻って母校のコーチをするらしい。らしい、というのも全部今友人(影山夢主)ちゃんから聞かされて正直頭がパンクしそうだった。

「ねぇ、なまえちゃんが何か隠そうとしてるのを無理には暴かないし聞かれたくないことは聞かないけど。もう、観れなくなるよ。それだけはわかって」
「...友人(影山夢主)ちゃ、ん」
「後悔してほしくないの。だって、なまえちゃん牛島選手の話する時昔と全く同じ顔して話すんだよ?わかってる?」
「...っ、」

そこが、わたしの限界だった。いい歳してぼろぼろと溢れ出る涙はわたしの心そのもので。言葉でいくら取り繕っても気づかないふりをしても、それが答えだった。

友人(影山夢主)ちゃんが差し出してくれたティッシュで涙を拭いていく、あ、マスカラ落ちた。

「わたし、若利くんに振られたんだよね」
「え、あ、そうなの?!」
「それで、わたしも一回若利くんのこと振ってるの」

これは墓まで持っていこうと思っていた話で、友人(影山夢主)ちゃんもかなり驚いてテーブルのコップをひっくり返して大慌てだった。

「振ったの?!」
「あはは、うん。振ったの、ウケるよね」

テーブルの上を拭きながら友人(影山夢主)ちゃんは目をまん丸にさせていて、思考をどこかへ飛ばしている。

「もしかして、あの日?」
「うん、多分合ってる」

友人(影山夢主)ちゃんが言う「あの日」とは、今から何年前だっけ?若利くんがポーランドに移籍すると聞いた日だった。

あの日は今日みたいに友人(影山夢主)ちゃんの家に遊びに来て、産まれたての飛空を抱っこして。それから、家に帰って面倒だからいつも怒られるけど病院の表口から家に帰ろうとしたら若利くんがいた。そう、若利くんがいた。


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