僕はただ愛されたいだけ | ナノ









「苦しいんだ」
吐き出せない言葉があった
「誰かに聞いて欲しいけれど」
胸の奥で鍵をかけて
「こんな話をして、相手に嫌われてしまうかもしれないと思うと」
あふれださない様に、している
「何も言えない。嫌われるのは怖い」





「一人になるのは、嫌だ」
誰か答えて





「なぁ、今日ファミレス寄ってこうぜ!」
嫌い 嫌い 嫌い
向けられた笑顔に吐き気がする。
俺にそれを向けて何の得がある?
得がないのなら俺に近寄る意味は何?
「新田ぁ…また彼女の愚痴?」
「悪いなぁ、やっぱお前しかいねぇよ!」





俺が一番じゃない癖に
昨日帰り道手をつないでいた女が
キミにとっての唯一なのだろう?
俺は彼からしてみたら、一体どういう立場で
どういう人間で相手で
どういう

(トモダチ なのだろうか)





「(別に恋人相手でもないくせに)」
俺は昔から
疑い深くて 嫉妬深い
何でもかんでも嫌な風に考える
「(俺恋人とかできちゃったら相手殺しちゃうかも)」
自分で自分にゾッとする。




誰か 俺だけを
俺だけを必要としてくれないかなぁ





「七々瀬君」
「…」
あれ、こいつ 誰だっけ。
突然俺の名前を読んだのは
「…あ、俺秋葉」
このクラスの、出席番号1番。
眉を寄せながら笑う男は何だか女のような顔だった。
「あ、わり」
こんな奴居たっけ…
「いいんだよ、俺今年初めて学校きたし」
「え?」
あああああ思い出した。


出席番号1番『秋葉 優』


1年の頃から不登校だったらしい男
殆どこいつの顔見た事ある奴いなかったんだっけ。
「つっても放課後だし…」
今までと同じく、今日も朝から居なかったはず






「うん、さっき来たんだ。休校届けだそうと思って」
ニコリと微笑んで、男は平然と言う。
「あ、あーそうなんだ。」
つーか何で俺に話かけてきたんだこいつ
今日初めて会ったよな?




「でも、やっぱり通おうかな」
「は?」
「七々瀬君が友達になってくれるなら」
「・・・?」
訳がわからない。
俺と秋葉は初対面のはずだよな?



「…どーゆー意味」
こういった種類の冗談は好きじゃない。
得体の知れない男に俺は腹のそこで苛立った。
「七々瀬君が良い顔するから」
「は?からかってんの?」
一歩一歩、近づいてくる秋葉
鼻と鼻がぶつかってしまいそうな距離






「…俺なら君を一番に想ってあげられるとおもうよ」
「 」
ビクン、と体が固まった。





「は?なに?何言ってんのアンタ」
「七々瀬君、愛されたいタイプの人間でしょ?」
耳元で囁かれて、鳥肌、目を見開く
「分かりやすっ、かわいー」
するりと横髪を耳に掛けられた。


瞬間






ふんわりと柔らかい感覚
なぁ。俺ほんっと意味わかんないんだけど。
「顔赤い、かわいい」
「…っ、は?キモいんだけど。秋葉ってホモなの?」
多分少しの間、息をするのを忘れてたように思う。
次の瞬間には、彼を罵倒していたのだけれど。


「ホモ…ホモ…ホモなのかなぁ」
「じゃなかったら男にキスなんてしねぇだよ」
ゴシゴシと口元を拭いて、彼に背を向ける。





「お前さっさと休学届け出せよ」
出入り口のドアに手をかけてそう言った。
「だからやめたっつってんじゃん。」
ビリビリと背中に何かを感じたけれど、俺は知らないふりをする。




「七々瀬君、また明日」
彼の顔に似合わない低い声が
俺の耳になんだか残って
多分明日も俺の前に現れるだろうと
そう思うと、背中がゾクゾクとした。
この感覚の名はわからない




「七々瀬ー!!」
「わり、待たせた?」
下駄箱にいた新田に声をかけられて
冷静な仮面を被りながら
ああ、やっと現実に戻ってきたような気分だった。




今日も昨日と変わらず、
新田の彼女の愚痴を聞きながら
そうやって1日が終わったけれど
多分明日は何かが変わるだろう。


期待か、不安か
分からないけれど
何だか胸騒ぎがして
一晩中目が冴えていた。




.


[前へ] [次へ]

戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -