nearly equal

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2


セットした替えのメロンパンは前のメロンパンより大きかったので、オレの胸の膨らみは更に迫力を増していた。増し過ぎてドレスからメロンパンが半分以上はみ出してた。
フロアに戻ると、盛りの増したオレの偽乳に他の客から感嘆と拍手が起きた。それはまるでサーカスの終焉に観客から贈られるピエロへの惜しみない拍手喝采のようで、オレは少しばかり感動してしまった。
全国メロンパン愛好会の皆さんの温かさに涙が出そうだ。ありがとうみんな。オレも好きだぜ、メロンパン。


そんな事を考えながら黒服に案内されたテーブルは、店の奥の個室風に仕切られたVIP席だった。このテーブルはめったな客には使わない特別席だ。この客は増田の言う通りに上客なのだろう。
そんな席にメロンパン詰めた女装者が付いて、果たして良いものなのか。もしかしてその上客とやらも本日お集まりの方々同様にメロンパン愛好家なのだろうか。突っ込み箇所は多々あるが、とりあえずオレはウケ狙いの濁声で「いらっしゃいませ〜」なんて言いながらVIP席に付いた。

席にはオレとさほど変わらない年齢と思われる男と、その男の隣にこの店の指名No.2の嬢、上座に向かっておっさんがふたり、そしておっさん達の奥にNo.1の嬢が…いたんだけどオレはもみあげと顎髭が合体してしまったみたいなモジャモジャ髭面のおっさんを視界に捉えた途端に軽く貧血を起こして意識が飛びかけた。おっさんの方も、オレに気付いて顔を青くしていた。

「あらホーエンハイムさん、お顔の色が優れないようですがご気分でも?」
「ちょっと頭痛が…」

奇遇ですね、オレも頭割れそうに痛いです。

「すいません、気分が優れないので…」

耐えきれなくなったのか、髭モジャは若い男になにやら耳打ちして席を立った。どうやら帰るようだ。見送りに立つ嬢を引き連れ、すれ違い様オレを一瞥しておっさんは店を出て言った。

面倒なおっさんが居なくなって、オレはホッと胸を撫で下ろしたが、久しぶりに会った息子に一言も無い親父に内心ムカついてもいた。
まあ、家を飛び出した挙げ句に女装して胸にメロンパン詰めた息子に掛ける言葉もないだろう。逆に声掛けられたらオレが困る。

…でも、5年振りに見た親父は記憶の中の親父より一回り小さくなったように思えて、何故だか鼻の奥がつんとなった。





オレが家を出たのは18の時だ。

親父は仕事人間で、親父と遊んだりどこかに連れて行ってもらったり、そんな記憶がオレには一切無い。それどころか会話した記憶もない。それくらい親父は仕事仕事で、家に居た事なんて殆ど無かった。

オレと親父の関係が元から他人みたいな物だったとは言え、オレが家を飛び出す迄には色々あった訳だが、まあそれは割愛する。とりあえずオレと親父は絶縁状態、母さんにはたまに連絡して安否を知らせてはいる。何故か親父にはベタ甘の母さんから情報が漏れて家に連れ戻されるのも嫌だから、母さんにもオレの居所は教えていない。
ただ、生まれつき身体が弱くて田舎のばあちゃん家で療養中だった弟のアルフォンスには一度手紙を書いて住まいを教えた。けど、愛想を尽かされてしまったのかアルから返事は来なかった。

病気がちで外で遊ぶのもままならなかったアルは、昔はあんなにオレにべったりだったのに。アルから返事が来なかった事は、負けないくらいアルにべったりだったオレにはちょっと…実のところ身を散々に滅多刺しされたくらいに痛く悲しく寂しかったが、大学の勉強に追われたり学費や生活費を稼ぐ為にバイトしたりして忙しく暮らしているうちに五年もの月日が経って、オレも今では大学院生だ。

アルフォンス、元気にしてるかな。もうすっかり元気になってこっちに戻って来て、今は大学にも通ってるって母さんから聞いてるけど、いまだに手紙の返事が来なかった事を引きずってるオレはアルに会いに行く事ができないでいた。本当に嫌われてしまっていたら悲しいし、アルに会いに行って嫌な顔とかされたらオレもう生きていけない気がする。



「素敵な衣装ですね」

天使のような愛らしさで「にいたん、にいたん」とオレを追いかけていた幼い頃のアルを思い出して息を荒くしていたオレの耳に、少し高めだがハスキーで嫌に色っぽい声が流れ込んできた。
その声で意識が戻ったオレが顔を上げると、隣の若い男がこっちを見ていた。

柔らかそうな金髪を短めに整えたその男は、濃い色合いの金瞳を軽く細めて微笑んでいる。優し気な眼差しと、その驚異的に整った容貌を間近で見たオレは、また軽く意識を飛ばしかけた。


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