nearly equal

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お別れしましょう。1

留学期間終了までの日にちが残り少なくなって、リンの元に訃報が届いた。

国王逝去。

リンは深く溜め息を吐いた。これでは期間終了を待たず帰国しなくてはならない。急ぎで飛行機のチケットを確保する為に母の傍付の者に連絡を取ると、国王が亡くなったばかりの国は混迷を来たしていた。
チケットの手配には時間がかかる為、一先ずアメストリスでの所用を済ますように言われる。

「所用ねぇ…」

リンにはエドワードへ別れの挨拶をするくらいしか思い付かなかった。









エドワードが目覚めた時には既にリンが部屋に居て、起き抜けにその顔を見たエドワードは眉を顰めた。

「オレ、鍵はちゃんと締めて寝たけど」
「ウン、閉まってタ。でも勝手に入っタ」

ごめんネと笑顔で言われ、育ちが良いのが取り柄の皇子様は手癖はあまりよろしくないのだと知った。

「なに、どうした」

いつもなら「おはようのチュー」などとふざけた事をぬかす男が、今日は酷く大人しい。一体いつ家に忍び込んで、いつからエドワードの枕元にいたのか。リンは穏やかな表情でエドワードを見つめたまま動かない。起き上がろうとしたら肩を押さえられて、エドワードは寝たままリンの顔を見上げる。
沈黙が重苦しくてエドワードは顔を背けた。リンの手が伸びてきて顎を掴まれ、優しく戻される。

「あ、今日は映画観に行くんだったな。もう時間?」
「ウウン、映画は行けなくなっタ」
「…なんで?」
「国に帰ル」

エドワードが目を見開くと、リンは顔を寄せて唇を合わせてきた。触れるだけの軽いキスなんて、考えてみれば初めてされる。最初からリンはがっついていて獣のようだったから。
唇が離れると、穏やかに微笑むリンと目が合う。恥ずかしくなって俯くと、また顔を引き上げられて目を覗き込まれた。

「だって、まだニ週間あるじゃん」
「親父が死んだんダ。最後だから、お別れに来タ」
「お別れって、じゃあ」
「もうこの国に来ることはないと思ウ。来れたとしても、エドワードには会えなイ」
「――……」

お別れダ、とリンが言った。
解っていた事だったけれど、別れは唐突にやって来た。リンにとってエドワードなど、留学先で見つけた毛色の珍しいペットみたいな物だ。国に帰れば相応しい生活がある。エドワードにはリンを引き止める権利もリンに着いて行く権限もない。

「最後だから、顔見に来タ」

そう最後最後と連呼するなと腹立たしくなった。
二ヶ月間、それこそシモの世話までしてやったというのに男は穏やかな表情を崩さない。所詮ペットとの別れなんてそう寂しくはないという事か。なんだそれ。悔しい。

「…顔見るだけでいいのか」
「ウン」
「オレは嫌だ」

何を言い出すのかとリンが少しだけ表情を曇らせた。腕を伸ばし男の首を捕まえて、力ずくで引き寄せる。

「本気で欲しがれって、言った」
「…ウン」
「欲しくないのか」
「……」
「オレは欲しいよ」

目の前の男の目付きが変わったのを見て、エドワードは笑った。先の事なんて勿論考えていない。たかが一介の高校生であるエドワードに出来る事なんて何も無いし、リンを引き止めておく方法を一月近く考え抜いたが、結局こんな事しか思い付かなかった。

「好きだよ、リン」

出来れば一生言いたくなかった、こんな恥ずかしい台詞。でも今言わなくては、この男に伝える機会は一生なくなってしまうかもしれない。そう思ったらするっと口に出来た。顔面には煮えたぎりそうに血が上ったが。
リンだからいいのだ。国に帰って王族に戻って取り澄ました顔をしたリンになんか興味はない。まして国王になったリンなど想像もつかない。目の前にいる大食漢でストーカーで、エドワードの都合などお構いなしに押し倒す、やりたい放題しているリンだからいい。そうじゃないリンなんてリンじゃない。

「…それはまた、強烈なプロポーズをありがとウ」
「プロポーズ言うな…で、どうなんだよ。欲しくないのか、お前は」

返事が返ってくるなんて期待はしていない。むしろ返事をされてもエドワードが傷付くだけだ。国とエドワードを秤にかけて、どっちを選ぶかなんて質問は馬鹿げている。リンは嘘をつかない男だから、こんな時は適当に誤魔化してしまうだろう。

――だから、せめて本気で欲しがれ!

「エドワード」

答えを待たずにリンの服を剥ぎ取りにかかったエドワードの頭を、リンの大きな掌が撫でた。たいして鍛えていないと言うわりに厚く筋肉が付いた胸板にしがみ付いて、そこを猫のように舐める。最後かもしれないと思うから夢中だった。

「…欲しいヨ、エドワード」

髪を撫でながら、リンが静かに言う。嘘。でも嬉しかった。リンに押し潰されながら精一杯喉を反らせて顔を上げると、噛み付くように唇を塞がれる。まるで獣。これでこそリンだと安心した。
 


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