nearly equal

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お食事はいかが?

アメストリスでの生活も三日が過ぎると、最初のうちこそ面倒臭がりながらもリンの相手をしていたエドワードが早くもダレた。出逢った初日にエドワードの携帯電話の番号を奪取したリンが電話を入れてもあからさまに着信無視。昼過ぎまで絶対起きない。非常に寝汚い。無理に起こすと(主にリンに対して)破壊行動を起こす。そのくせ夜更かししている訳でもなく、日付が変わる頃には就寝してしまうらしい。睡眠に関して異常に貪欲で、それを邪魔されるのが何より嫌い。

「エドワード、俺はアメストリス文化も学習しに来たんだけド」

昼過ぎにようやく起き出したエドワードに鍵を空けてもらい、家にあげて貰うまでに十数回は電話する。メールも同じくらいの回数。

「だから案内したじゃねーか。図書館に資料館、カルチャーを学ぶべくゲーセンにカラオケまで」
「ウン、ゲーセン楽しかっタ。回転寿司も楽しかっタ。でもカラオケはイマイチ」
「これ以上何を望む」
「俺はエドワードとお出掛けしたイ」
「お前が暑いの苦手だって言ったんだろ!我が儘皇子が!」
「じゃあ涼しくなってからでいいかラ〜」

エアコンの効いたエドワードの部屋に上がりこんでゲームをしたり漫画を読んだりしているのも悪くないが、折角二人で居るのだからそれなりに有意義な時間の使い方をしたい訳で。

「エドワード」
「…なんだ」

若干うとうとし始めているエドワードに気付いて話し掛けた。散々寝てまだ寝足りないのかこの餓鬼は。

「俺の泊まってるホテル、ご飯スゴク美味しいノ」

エドワードが睡眠の次に欲する欲求は食欲だと、この三日間で気付いた。起きぬけは然程食べないが、食欲自体は旺盛なのだ。回転寿司に連れていって貰った時は、勘定はリン持ちだと言ったらこれでもかと高値の皿を食いまくった。

「ご飯…」
「和洋中にイタリアン、一通り店が揃ってるから、今晩はホテルでご飯食べなイ?ご馳走するかラ」
「…中華」
「北京ダック、なかなかイケるヨ」
「北京ダック……!」

睡魔に連れて行かれそうだった意識は北京ダックの魅力に舞い戻ってきたらしい。倒れていたベッドから半身を起こし、目を輝かせ見上げてくるエドワードに苦笑しながら、リンは心の中でこっそり舌を出した。

出逢って三日、もうまるっきり知らない他人という訳ではないし。何よりリンが飢えていた。
早くエドワードを味見したい。友達ごっこはもう十分だった。

この世には、只より高い物はないのだ。






日が暮れ始めてからエドワードの家を出、通りでタクシーを拾ってホテルに直行した。
ホテルに着くとまっすぐにリンの部屋に案内する。エドワードはリンが滞在する部屋の広さに感嘆の声を上げ、そこらのドアを開けたり閉めたりしてはしゃいでいた。

「すげ〜…オレ今日からここに泊まりたい」
「ドウゾ、エドワードなら歓迎するヨ」

程なくルームサービスで頼んでいた料理が部屋に届き、今度はテーブル一杯に並べられた料理に感嘆の声が上がる。

「すっげえ!」
「さぁどうゾ。追加もできるから、気に入ったのがあったらどんどん頼んでネ」
「いっただきまーす!」

前菜、あわびの冷菜、鱶鰭スープと次々に腹に収めていくエドワードを見ながら、リンは甕出しの紹興貴酒を呷った。

「…何飲んでんの」

食べる一心だったエドワードがリンのグラスに目を向けた。どうやらアルコールにも興味があるらしい。

「酒?」
「紹興酒だヨ。食前酒だけど、飲んでみル?」
「飲んだことない、飲んでみたい」
「ハイハイ、飲んでみテ」

グラスに少しだけ注いでやると、クセの強い酒を怯みもせず一気に飲み干す。しかしやはり香りが合わないのか眉間に深い皺を刻んでリンを見返した。

「まず…」
「じゃあワイン頼もうカ、赤?白?」
「白。あと、北京ダック」
「ハイハイ」

リンが追加注文している間にもう一杯紹興酒を盗み飲みしたエドワードは、暑い暑いとこぼしながらシャツを脱いでTシャツ一枚になってしまう。ほんのり赤くなった頬を膨らませて牛肉の黒味噌炒めを頬張る。
顔色にさほど変化はないが、よく見れば肌はうっすら色付いて薄桃色に染まっていた。あまりアルコールには強くないらしい。ほどほどにさせないと酔い潰れてしまうかも。
頼んだワインと北京ダックが運ばれて来る前に飲茶まで片付けたエドワードは、部屋に据え置かれたワインクーラーの中身を物色し始めてリンを困らせた。

「お前、ホントに皇子なんだな〜」

部屋の調度品を眺めながらしみじみと呟くのでリンは苦笑する。

「第二皇子だから大したモンでもないけどネ。まあ責任もないしプレッシャーも少ないし、気楽なもんだヨ」
「でも、逃げらんないだろ?皇子も楽じゃねーだろうし」

驚いた。リンの境遇を羨む者は居ても「楽じゃない」などと言った者は今まで居なかったから。

「生まれる家は選べねーって言っても、生まれた後の人生は大概選べるもんなのに、お前はそれも自由に選ばせてもらえないんだろ」
「…なんでそう思うノ」
「え、違う?だってお前、何しててもちっとも楽しそうじゃねーし」

リンの事を厄介者扱いしているだけだと思っていた少年は、何気にしっかり観察していたらしい。そんなに解り易くつまらない顔をしていたのかと思うと急に気恥ずかしくなった。

「…参ったネ」

リンとて自国から離れて何の規制もなく自由にしている訳ではない。自国に自由に戻れないという一番の規制があり、行動の制限があり、本当なら友人も交際相手も自分の自由には決められない。リンの自由になるのは唯一金だけで、だからこそ金銭で片付く愛人をとっかえひっかえしていたのだ。

――本当は、寂しいから。
リンは王国の第二皇子であり、王国の一部である。リン個人の存在は皇子と云う立場の前には容易く消滅し、誰もが見るのは第二皇子と云う存在であり、王国であり、リン個人ではない。
――誰も、俺の事なんて見てないと思ったから、俺はいつもつまらなかった。

近寄ってくる人間は、金銭だったり地位だったり、皆リンに何かしらの期待を持っていた。リン個人の事など見ていない。彼らに見えているのはリンの財力と地位、それだけ。

「エドワード、君には俺がどう見えル?」

頭の奥で警鐘が鳴っていたが、躊躇わず問う。この少年の目にリンはどう映っているのか知りたかった。口では何とでも言える。しかしたとえ諫言で謀られたとしても、今なら信じてもいいと思った。

「教えてくレ、エドワード」

縋るような顔をしてしまったと思って、思わず俯く。得意だった筈のポーカーフェイスはすっかり剥がれている。今、自分がどんな顔をしているのか見当もつかないから、恥ずかしくてエドワードの顔が見られない。

「欠食児童、腹黒、それと――多分、殺しても死なない、面倒なストーカー」

ああ、今なら、エドワードになら、騙されても毒を盛られても構わない。




リンにしてみれば、狙っていた獲物を迷わずベッドに押し倒しただけの事だったのだが、エドワードにとっては思ってもみない展開だったらしく服を剥ぎ取るまでには激しい抵抗があった。腕力と体格の差でリンの方に分があったので、間も無くエドワードは抵抗虚しく丸裸に剥かれてベッドに転がされたが、それでも絡んでくるリンの腕を払い除けようと手と口で抵抗した。
何がそんなに嫌なんだと訊ねれば、普通いやだろと言い放ちついでにリンの腕に噛み付いてくる。

「俺がやれる物なら何でも差し出すから、俺の物になっテ」

相手にここまで抵抗されたのは初めてで、リンにも焦りが出ていた。何より先程の一言で気持ちがエドワードに傾いている。そしてその裸体を見たら、今すぐ無理矢理にでも手篭めにしてしまいたかった。

「だっ、なん、だってお前、オレの事好きなのかよっ!」
「好きだヨ」

今までは顔が好みの愛玩動物的な感情しかなかったが、今はどうしてでも手に入れたかった。

「お願イ、エドワード」
「っ……」

開けばいつもは憎まれ口ばかりたたく唇が、今日はいやに鈍っているようだった。視線を忙しなく彷徨わせ、あぁとかうぅとか、煮え切らない言葉ばかりが零れた。

「エドワード」

相手が油断しているうちに膝を割り開き、上がる制止の声を無視して僅かに芯を持った肉塊を握り込むと、喉の奥から搾り出したような甘い吐息が漏れる。

「エドワード」
「ああ、もうっ!」

観念したように短く叫び、エドワードが眦を赤く染めてリンを睨み付けた。瞳が潤んで頬が朱に染まり、その表情にリンの下肢が限界を訴える。

「だったら、本気で欲しがれ!」

それを肯定と取って、リンはエドワードの喉元に噛み付いた。
言われずとも本気も本気。喰らい尽くしてしまわないかリン自身も心配になるほど、無我夢中で目の前に投げ出された肢体を貪った。



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