1 人も疎らになった食堂で、久しぶりに兄の姿を見かけた。 ここ数日、兄とは顔を合わせる暇もなかった。兄弟揃って不規則な軍隊勤務をしているものだから、同居しているのだから、職場は同じなんだから――なんて油断をしていると、勤務時間帯や持ち場のズレで、一週間や十日は平気ですれ違い生活になってしまう。そのタイミングの悪さときたら、誰かの陰謀なんじゃないかと勘ぐってしまう程だ。 この日も、一週間振りに兄の姿を目にしたアルフォンスは、食堂の一番奥のテーブルで独り突っ伏している兄――エドワードの後ろ姿を確認して、ひとまず安堵の溜め息を吐いた。 エドワードは、何かに没頭すると自己管理が疎かになる。忙しくて時間が足りなければ睡眠時間を削り、誰かが世話を焼かなければ食事を摂る事も忘れて没頭してしまう。 そんな生活をしていれば体力の限界が来て倒れたり、身体を壊す事は必須だ。しかし質の悪い事に、エドワードの身体は少年期から鍛え抜いて基礎体力が付いているので、限界ラインが通常よりかなり高い位置にあった。その上、度が過ぎる負けず嫌いの性格を丸くできないまま大人になってしまっていて、誰かが諫めなければ倒れる寸前、もしくは倒れるまで自分に鞭打つ悪癖を持っていた。 かつて二人が旅をしていた頃は、エドワードの世話を焼くのも諫めるのもアルフォンスの役割だった。しかし旅暮らしが終わって軍役に就いてからは、二人が以前のようにぴったりと寄り添って過ごす時間は減った。 お互いに自分の仕事を持つと、どうしても干渉できない時間が増えていく。 アルフォンスはエドワードと違って無理はしない性分であったし、完璧とはいかずともそれなりに自己管理が出来た。しかしエドワードは全く駄目だった。 アルフォンスが目を光らせていなければすぐに寝食を忘れるし、熱を出していても自分で気付けないほど自らの身体に鈍感。アルフォンスが何度となく言い聞かせたが、エドワードの不摂生が改善される事はなかった。 エドワードは顔をテーブルに押し付け、両腕をテーブルの下にだらんと垂らしたまま、ピクリとも動かない。 櫛も入れずに結ったらしい髪は所々解れ髪が飛び出し、軍服の背中も皺が寄ってくたびれて、一目で疲れ果てていると分かる様相だった。 ←text top |