※会話文
「フッフッフッ…いつまでも拗ねてねェで、こっちへ来いよ」
『別に、拗ねてなんかいません。放っておいて』
「その態度が拗ねてるんじゃなきゃ、何だって言うんだ?」
『何だっていいんです。放っておいでください』
「おまえの好きな菓子も紅茶もあるぞ。ああ、このあいだ欲しがっていた服と靴もそろえてある。一体何が気に食わない?」
『……』
「明日からまたしばらく空けるんだ。機嫌よく見送ってくれよ、名前」
『……』
「名前。言いたいことがあんなら言え。いい加減鬱陶しいぞ」
『! …言ったって…』
「ああ?」
『い、言ったって! 仕方のないことだから!』
「はあ? 言ってみなきゃあわからねェだろ」
『いいえ、わかります! どうにもならない!』
「チッ、面倒くせェな。さっさと言え」
『だって! だって! じゃあ言いますけどね! もっとずっと構ってほしい!』
「は?」
『ほら! 何言ってんだって、そんな顔して! 言ったって仕方ないことだったでしょう?!』
「……」
『この前までお部屋に籠ってばかりでろくにお話しもできなかったじゃないですか…それなのに今度はお出かけ…? にこにこしてお見送りできるほどいい子じゃないんです私…』
「名前…」
『こんなことも言いたくなかったんですよ! ただの我儘だから! 今回だってちゃんと我慢しようとしたんです! なのに若様が言え言えって言うから! もう、こんな…』
「……」
『笑って行ってらっしゃいは言えません…でも嫌わないで…留守のあいだはいい子にしてるから…帰って来たらまた私を構って…』
「…フッフッフッ…フッフッフッフッフッ!! ああ、気分がいい!!」
『?』
「そうか。それで名前ちゃんは拗ねてたわけか? ええ?」
『ひ、人が真剣に答えたのに…バカにして…!』
「バカになんてしてねェよ。ああ、そうか。そんなことを考えて…フッフッフッ、ああ、たまらねェなァ」
『……』
「用があるからな。出かけるのはやめられねェ」
『! ほら…だから…』
「連れてってやるよ。それで問題解決だろう?」
『いいの?』
「たまにはなァ。船のうえじゃおれも退屈なんだ。おまえがいりゃあいい暇つぶしになる。嫌ってほど構ってやるよ」
『! べ、別にそこまでは構ってくれなくても…』
「フフッ、これからは我慢せずに甘えるといい。おまえの我儘くらい可愛いモンだ」
口は災いの元
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