考えてみれば、よくよく考えてみれば、それは普通ではなかったのかも知れない。


「かも知れんっちゅーか、どう考えてもおかしいやろ、それ」

『そうなのかなあ』


せやせや、と浅い頷きを繰り返して、忍足くんは日誌の続きを書き出した。
おかしいと言えばこの状況も大概おかしい。忍足くんのクラスはここじゃないのに、どうしてここで日誌を書いてるんだろうか。


「それは俺が名前ちゃんと一緒におりたいからやで」

『…私、思ったことが口から勝手に出ちゃった! なんてスキル身に付けた覚えないんだけど?』

「大丈夫、口からは出てへんよ。名前ちゃんがわかりやすいだけや」

『ふうん、そう』


納得いかないけれど、納得するしかない。幼なじみの跡部くんにも言いたいことすぐ言い当てられちゃったりするし、わかりやすいと言うのはあながち間違いでもないだろうから。


「しかし名前ちゃん、うちに転校してきてほんまよかったなあ」

『何でそう言えるの?』

「そりゃあ俺と出会えたからに決まって…」

『それ本気で言ってるの?』

「冗談や。その不審者見るような目ぇやめて」


苦笑いする忍足くんはやっと日誌を書き終えたようで、表紙を閉じた。
今日は部活も休みみたいだから、職員室に日誌を出したらまっすぐ帰るんだろうな、なんて思いながら私は鞄を持った。
だけど忍足くんは座ったまま動かない。どうしたんだろう。


「やっぱ、前言撤回な」

『? ぜんげんって、どれ?』

「さっきの、うちに来てよかったな、ってやつ。あれ、やっぱあかんわ」


がたん。無遠慮に立ち上がった忍足くんの手が、目の前にいる私の首にかけられる。


『なに、するの、』

「名前ちゃんとこの部長さんの気持ち、今ようやくわかった」

『忍足、くん、』


ゆっくりゆっくり込められていく力と、鮮明になっていく指の感触。やっぱりここでも変わらないみたいだ。忍足くんの姿に、あの子の姿が重なる。


「何やろなあ、何かもう、愛しすぎて殺めてしまいそうや」


好きだよって言いながら、私の首を絞めてくるの、うちの部長。
考えてみれば、そう、ちっとも普通のことじゃなかったんだ、こんなの。

くるしいくるしいくるおしい


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