ここにいて。

「……さむい。」
ふて腐れた唇が小さく動いた。
「ほんと、今年は冷えるネェ……。」
部屋の隅で縮こまっている巨体を横目に庭を眺める。
「そう思うなら閉めろよ。」
いつもよりも威勢のない声に、喉の奥から笑い声が出てしまった。
「オレはそこまで寒くないから大丈夫ダヨ。」
「大丈夫ダヨ、じゃねぇよ! 俺が寒いんだよ!」
動くたびに冷気に触れるからか、動きも少ない。
オーバーリアクションが常なので、なんだか物足りない気分になる。
「そんなに寒いなら、妖姫に火鉢出してもらえバ?」
「経費削減とか訳の分からん理由で焔に却下された。」
ふて腐れていた理由が見つかった。
寒いのなら布団でも被ればいいのに、そうもせずに隅っこで縮こまっている理由が簡単に浮かんでしまった。
ふさふさの金色の耳と尻尾を持つ青年を思い浮かべる。
あの尻尾は温かそうだ。きっと寒さに強いに違いない。
「焔はあったそうだもんネー……。」
彼と似た色に衣替えをした木々の葉を見ながら呟くと、ヨウは急に立ち上がった。
「そうだ! 焔で暖まればいいんだ!」
きっと彼女は何も考えずに言ったんだろうけど、こっちは吹き出しそうになった。
何も飲んでいなくてよかった、と心底思うほどに。
「え、焔は今仕事中でしょ。年の瀬近いし。邪魔になるヨ?」
普段なら仕事の邪魔は大賛成だけど今は駄目だ。
「大丈夫。そんなの今更だ。」
もう決めた、という表情は揺るぐ気配がない。
そこまで寒いのか。それとも邪魔できるのが嬉しいのか。
なんにせよ面白くない。
「よし、じゃあ行ってくる!」
先ほどまでのふて腐れた顔はどこへやら、楽しそうな表情で部屋を出ようとするヨウに、俺は慌てて襖を閉めた。
「なにすんだよ。」
「外に出たら寒いヨ。」
「後で暖まるからいいんだよ。」
自分よりもずいぶんと高い位置から睨まれる。
こっちの顔が見えていなくてよかった。きっと、すごく嫌な顔をしている。
ああ、もう。どうしてこうも伝わないんだ。
彼女の手を取ると、ひやり、としていた。本当に冷えている。
「そんなに寒いなら……」
言いながら、部屋の奥へと連れ戻し、押入れから掛け布団を引っ張り出し彼女に放り投げた。
「それに一緒に包まってあげるヨ。」
そしたら暖かくなるでショ、言い終えて彼女の顔を見る。
ヨウは投げられた掛け布団をちゃんと受け取っていた。
「まあ、うん。たしかにそうだな。」
そして、その場に座り込んで手招きする。
「暖まるから、ほら、早く。」
予想以上にすんなりと動くので、こっちが逆にやり難くなってしまった。
言い出したのは自分だしな、と仕方なく彼女の手招きに従う。
彼女に背中を向けて座らされると、背後から腕が伸びてホールドされた。
そして、その上から布団の重みが乗ってくる。
「あー、鬼あったけぇ……。」
頭にヨウの顎が乗った。なんだか癪に障る。
「デショ。」
まあでも、これはこれでいいかもしれない。
少なくとも彼の元には行かせずに済んだわけだ。
自分の嫉妬心に嘲笑いながら、しばらくの間、背中の温もりを楽しむことにした。

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