君と眠る夜

月が真上に昇る頃になってようやく、分厚い本の閉じる音が聞こえた。
「寝るのか?」
机の上に置いてあったランタンの灯りを消し、危なげな足取りで寝床へと向かうアイファに声をかけると、オレンジ色の瞳は瞬きを繰り返してキリヤを見る。
「……起きてたの?」
キリヤの顔を照らす光はまだ赤々と灯っていた。
「まあ、一応護衛だしな。」
なんてことない、という表情で笑いながら、ふと質素なベットですやすやと眠っているトエリに目を向ける。
「あっちは熟睡してるみたいだぜ。」
自分の寝床を占拠されていることに気付いたアイファは、寝息と共に動く羽耳を軽く睨み付けた。
だが睨んだくらいでは起きるわけもなく、行き場の失ったアイファはキリヤの向かいに腰を下ろす。
「アイファが寝るまで待ってるって言ってたんだけどな。」
苦笑を零したキリヤにアイファは頷いた。
「どこででも眠れるから問題はない。」
「体痛めるぞ。」
強がりではなく本心で告げたアイファは、三角座りをしたまま膝に置いた腕の中に顔を埋める。
「せめて寝転べよ。」
「寒い。」
「寝袋は?」
「トエリが使ってる。」
見ると、ベットの敷布団にはアイファの寝袋が、掛け布団にはトエリの寝袋が使われていた。
「……贅沢だな。」
「ほんとにね。」
思わず漏れた言葉にアイファのくぐもった声が同意する。
「オレの使うか?」
キリヤは自分の真横に置いていた寝袋を持ち上げて見せた。
その提案に、アイファが顔を上げる。
「……キリヤは?」
「オレは平気だから。」
気にするな、と微笑むキリヤにアイファが少しだけ、むっと眉を寄せた。
「なら半分貸して。」
そう言った途端に立ち上がりキリヤの隣に座り直し、寝袋を広げて掛け布団にして、自分とキリヤに掛ける。
何も言えずに固まっているキリヤに構わず、彼にぴったりとくっついて、目を閉じた。
「じゃ、おやすみ。」
返事を返す前に寝息が聞こえてくる。
相変わらず寝付くのが早い。
「……や、そうじゃなくて……。」
小さい声が無意識に零れた。
「どうしろっていうんだよ……。」
ため息は出るし、身動きもできずに困るが、隣の珍しい温もりを逃がしたくはない。
途方にくれたキリヤは、二人を照らす灯りを消し、眠れぬ夜を一人静かに過ごすことにしたのであった。

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