好きと言って | ナノ

大きな任務2

"アリスの姿が消えた"

ウェスカーからの通信でジルは胸騒ぎでいっぱいだった。

「犯人がいるかもしれない、気を引き締めろ!」
「ええ、わかってる」

ジルはバリーの言葉に頷き、部屋のノブに手を掛け待機する彼の姿を見つめる。空気が張りつめていくのを感じた。
その時、ウェスカー達から無線が入った。

『犯人を2名発見、待機中。人質はクリスが避難誘導をして無事脱出。残り男児1名だが、こちらに姿は見えない。犯人の正確な数も依然わからないままだ。バリー、ジル、状況を』
「こっちも最後の部屋だ。だが、ドアが閉まっていて中が確認出来ない、突入許可を」
『ではこちらと同時に突入だ』

そして、ウェスカーの合図で一気に突入する。

「動くな!S.T.A.R.S.だ!」
「はいっ!!!!!」

ドアが勢いよく開けられる音と共に威勢良く叫んだバリーに負けず劣らず響く甲高い声。その声を発した人物の姿にジルは強張った表情が軟らいだ。

「…!」

部屋の中には両手を挙げるアリスとその足元にしがみついている小さな男の子しか居なかった。犯人らしき人物はいたのだが…正確には、"意識のある犯人"の姿はなかった。

「……ジル!バリー!ああ……」
「アリス!」

ジルが名前を呼ぶとアリスは安堵の表情を浮かべ、しゃがみ込むと男の子を抱き締めた。

「よかったね、もう大丈夫だよ!」
「わー!かっこいー!ヒーローだ!」

もう助かったとばかりに喜ぶ男の子とアリスを尻目にバリーは冷静に辺りを見回してから、聞き耳を立てている。

「無事でなによりだ………に、しても…あっちも静かだな、銃持ってるんじゃなかったのか?」

床に伸びた犯人を調べながらバリーは、犯人と対峙したはずのウェスカー達の方からも銃声が聞こえない事につまらなさそうに言った。

「犯人が持っていたのはモデルガンとナイフだけだったの。あっちにあるよ……私が蹴飛ばしてしまったから」

アリスの発言に頷くと、バリーは無線に手を掛けた。

「こちらバリー、人質の男児を救出。犯人は……アリスが1名確保済み。アリスも無事だ」
『!!……こちらも2名確保。犯人はこれで全員のようだな』

少し離れたところでモデルガンを回収したジルは、ナイフも見つけ目を見開いた。ナイフには血が付いていたからだ。焦って振り返るも、笑い合っているアリスと男の子。きっと男の子に怪我はないのだろう、到底我慢できるような年頃には見えない。

「アリス、……あなた、怪我は?」
「あ……大したことないの」
「おねーちゃん、けがしたの?」
「ううん、大丈夫だよ!」

ジルがアリスの方へ急いで歩み寄ると、彼女の二の腕に服の裂けた跡と、滲む赤があった。男の子には不安にさせないためにも隠していたようだ。

「もう、…止まってるの?」
「うん」
「…ねえ、ボク?皆のところに行こうか?」

ジルはアリスの傷の止血の確認だけすると、男の子を抱き上げた。彼は母親と会える喜びからか満面の笑みでジルにしがみつき大きく頷いた。

「ジル、ありがとう」

アリスが二の腕を押さえながら小さく礼を言うと、ジルは彼女にアイコンタクトをする。

「さあ、一見落着だな!」

犯人を担いだバリーが威勢よく言い、先頭を切って部屋を出るのに皆続いた。

141009

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