好きと言って | ナノ

大きな任務

「遅れるなよ、集中すれば大丈夫だ」
「う、うん…ありがとう、クリス」

銃を握り締める手には汗がじんわりと滲んで、アリスは自分でも心拍数が異様に上がっているのを感じ取っていた。優しいクリスの言葉は脳には届かず左から右へと流れていった。何せ、まだ新人のアリスにとってこんな大きな任務は初めてだ。

数人の銃を所持した強盗がとある家に押し入ったのだが、通報を受けた警察から逃れるため立て籠ったため、S.T.A.R.Sの出動要請が出た。

「言っていた通り突入部隊を二手に別ける。東西の入口だ。バリーとジルはこの場で待機、また追って指示をする。まずは人質となっている恐れもある住人の身の安全の確保だ」

緊張で耳もおかしくなりそうなアリスにもウェスカーの指示がかろうじて聞こえ、落ち着こうと必死に深呼吸をした。

そしてアリスが突入部隊として振り分けられたのはウェスカーと同じ方で、隊長との行動という面でも彼女は緊張していた。彼の判断力は完璧で指示も的確で上手く部屋の探索が進んでいた。だが、ある部屋入り口でウェスカーが立ち止まった。

「こちらウェスカー、住人らしき人物を数名発見」

無線に呟いた後、彼はアリスの方をしっかり見たので、彼女は何を言われるのかと、体を強張らせた。

「合図するまでここで待機していろ」

声を潜めたウェスカーの指示に、アリスは私も行きますと口を開きかけたが、彼の掌で覆われて叶わなかった。

「命令だ」

彼女は自分が足手まといだからそう言われたのかと思ったのだが、ウェスカーの目を見て何か考えが有る事を察したようでコクりと大きく頷いた。
しかし、頼もしい後ろ姿を見つめながら、アリスは自分も何か力になりたいと、焦れったい気持ちが募ってくる。

ウェスカーの指示か、一人の女性がアリスの方へ逃れてきた。強盗犯達はこの部屋には居ないらしい、この様子だと人質は安全に解放出来、犯人の逮捕も時間の問題だろう。

「お怪我はあり……」
「息子を…!息子を見ませんでしたか?まだ小さいの、あの子きっとよくわかっていないから…」

隊員らしく気遣う言葉をかけようとした矢先、遮られた。彼女はどうやら息子とはぐれたらしく、安否を心配しているようだ。
見回してもそれらしき姿は見当たらない。母親はパニックになりかけていた。

「大丈夫、私が探してきます。だから、落ち着いて」

ニッコリと笑顔を向けるアリスは自分よりこの状況に動揺した人の存在に、少しは落ち着きを取り戻したようだ。

…どうしよう、この人の息子さん、探しに行った方が良いよね?このままだと危険だし。
アリスはウェスカーの待機の指示を思い出したが、そもそもの"住人の安全確保"という任務内容と照らし合わせて考え、一人納得して大きく頷くと、来たルートを引き返し、他の部屋へと向かった。

140905

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