好きと言って | ナノ

響く声に扉は開きますか?

昨夜車を署に置いたままにしたため、アリスは今日はバスでの通勤で早めに着いた。

「隊長!おはようございます!!」

自分より先に出勤していたウェスカーにいつものように元気良く声を掛けた。彼はこめかみを押えて彼女を見やった。

「聞こえている、大きな声を出すな」
「もしかして二日酔い…?大丈夫ですか?」

極端に小声でヒソヒソとアリスは尋ねた。アリス自身もかなりの量を飲んだが、父の血を継いでかかなり強い方なのだろう。今朝の目覚めはバッチリだった。それに引き換え辛そうなウェスカー。
隊長ぐらい強くても二日酔いなるんだ…
ウェスカーは大丈夫だと、無表情のまま言いアリスをあしらおうとしたが、また彼女が、あ!と大きな声を発したため、溜息をつくことで頭痛を逃がした。

「煩い」
「昨日急に帰っちゃってすみません、支払いも…」
「気にするな」

そう言われても、誘ったのはアリスで食事に行く元々のきっかけも"お詫び"なのだ。

「いくらでした?私たくさん飲んだし……」
「………」

おろおろする彼女に、昨日の自分の姿を思い出したウェスカーは無言の後、口を開いた。

「昨日は情けない姿を見せてしまった。忘れてくれ。だから気にするな」

少し小声になった彼にアリスはびっくりしたが、すぐに笑顔になる。

「じゃあ、今回は御馳走様です!今度は私がご馳走しますね!」
「……好きにしろ」

言い捨てるように去るウェスカーをアリスは相変わらず笑顔で見送り、また約束を取り付けることが出来た為満足そうに頷いた。
冷静沈着な彼を心が無いだとか言うメンバーも多い中、ご馳走になったり、彼の愚痴を聞いたりと少しウェスカーという人物が見えた気がしたのだった。


* * * *


この日は出勤後すぐに実践訓練の日だった。
2つに別れたチームはアルファもブラボーもランダムに入り混じっていて、アリスはウェスカー率いるチームだった。待機を命じられ、少しウェスカーが離れた時、同じチームのジルが肘で小突いてきた。

「何?ジル、どうかした?」
「アリス、昨日はどうだったの?さぞ楽しいお食事だったんでしょ?」

皮肉もこもってはいたがアリスは気付くことなく、ジルに親指立てて白い歯を見せた。

「楽しかったよ!バッチリいろんな話聞けた」
「ふーん。どんな話するの?想像つかないわ」
「んー、S.T.A.R.S.に入る前の…「仕事の話以外よ」

ジルに遮られて再びうーんと唸るアリス。

「…恋話…とかかな?」
「「「ええっ!?」」」

待機していた他のメンバーまで一緒になって叫んだ。クリスは銃を落して、何やら口をパクパクさせている。

「嘘でしょ?」

ジルが笑いを堪えながら言う視線にアリスは少しムッとした。

「何がおかしいのよ、本当だもん!」
「……貴様等、死にたいようだな」

アリスが叫んだ所で、冷たい声が響いた。合図を出しても付いてこないチームの元へウェスカーが帰ってきて仁王立ちしていた。

この後ウェスカーを除く彼のチームにはもちろん重い罰則が科せられたのだった。


150706

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