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バレンタインという行事は日本では特に盛大なイベントの一つだ。
アメリカでは別に女性から男性へ、という決まりはないにしても恋人達や、これからそうなろうとしている男女の間において、やはり特別な一日である事に違いない。
アメリカと日本の血を引くレイナにとってもそうだ。日本人である母が家族に作るチョコはレイナの印象に残っており、それは幼馴染にも影響を与えていた。

「クレアは何か作るの?」
『もちろん…と言いたいけど今回はちょっとパス』
「えー、貰おうと思ってたのに」

レイナは頬を膨らまして言ったが、電話の話し相手のクレアには見えない。
同い年のクレアとは幼馴染で仲が良く、姉妹の様な存在だ。用事がなくても連絡を取り合い、会って他愛の無い話をしながら食事をする事も珍しくない。
スピーカーからはクレアの笑い声が聞こえる。

『兄さん、今年は無いからって宣言したら、目に見えて残念がってたわ』
「クリスは毎年楽しみにしてるもんね、クレアのチョコ。私も楽しみにしてたのに……」
『レイナも料理出来るんだし、作れば良いじゃない!』
「うん、今年はね……作ろうと思ってるの」

何だか気恥ずかしい、とレイナは思いながら、語尾が段々小さくなっていく。
今年は作るって決めたんだから。チョコを渡して自分の気持ち伝えるの…!
クレアに作ると宣言して自分の決意が揺らがないようにしようと考えていた。

『まさか!レオンともうそんな関係になっちゃったの!?』
「なってない!もう!早とちりしないで。彼は友達よ」

レオンとはクレアからの紹介で連絡を取る様になった。女運が無いイケメンが可哀想だとクレアがレイナに強引に引き合わせたのだ。実際に会った彼は、想像以上に整った外見に一瞬見惚れてしまったぐらいだ。でも顔が良いだけじゃなく彼はジョークを飛ばしたり、レイナとも話も合う。それは仲の良い友人の様な話ばかりだったが、クレアには付き合うのも時間の問題ね、と言われていた。
レオン、沢山チョコ貰うんだろうな…。

「レオン、私の事何か言ってた?」
『いいえ、全然連絡とってないから、何も聞いてないわ。…そうだ!!せっかく作るんなら、クリスにもあげてよ、レイナのお菓子喜ぶわ、きっと』

クリスももちろん幼馴染だ。彼はいつだってレイナの事を守ってくれたし、実の妹の様に可愛がってくれている。

「でも、クレアのチョコと比べられない?私、お菓子は作り慣れてないから……」
『大丈夫よ。兄さんレイナの作った物なら何でも喜ぶわ、貴女にメロメロなんだから』
「クレアにもね」

二人で笑い合うと、幼い頃の記憶が蘇る。喧嘩をするクレアとレイナの仲裁は彼の役目であり、厳しい時もたまにはあったが、基本は優しい性格だ。二人に対して甘く、この我儘なお姫様達にはよく振り回されていた。
クリス、会えてないけど元気かな…。
クレアより回数は少ないものの、彼ともよく電話はする。レイナの良き相談相手だ。

『それじゃあ、私明日早いからそろそろ寝るわね』
「わかった、おやすみ」
『チョコ頑張って、おやすみなさい』

電話を切ると、無性に部屋が静かに感じた。
チョコか好きって言ったら、どう思うんだろう…
気持ちを伝える事はクレアには言えなかった。それはやっぱり何処かまだ自分でも臆病になっていて踏ん切りが付いていない証拠だ。今までも気があるような思わせぶりな行動は出来なかった。
でもウジウジしてばっかりじゃ前に進まないわ!
もう自分を追い込むしかない。デートの約束をして渡すしかない状況にしてしまおうと、レイナは再び携帯電話の電話帳を開いた。並ぶ名前に彼の名前を探し、ドキドキしながらその名前を選択した。

クリス
レオン
150214




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