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「ドキドキするなー」

レイナは周りの人に聞き取れないぐらい小さく呟いた。独り言でも言わないと緊張でどうにかなりそうだ。
レオンは今日は仕事で遅くなるそうで、ディナーどころかお茶をする約束のみになってしまった。誘った時、レオンはこの日がバレンタインデーだという事が頭になかった様で、電話の向こうで、その次の日なら休みなんだが、と少し残念そうに聞こえた。
ゆっくり会いたい…、って思ってくれたのかな。
その考えは告白という一大決心を今日まで後押ししてくれた。

バレンタインタインデーである今日はカップルを多く見かける。レオンの仕事場の近くの喫茶店で一人待つレイナは、傍のテーブルにつくカップルを見ていた。男性が花束を女性に贈ったのだろう、嬉しそうに抱えている。
あんな風に喜んでくれるのかな?もしかして、私に何か用意してくれてたりして…。
変な期待にナイナイと首を横に振り、バッグの中のチョコの箱を確認する。かなり力を入れて可愛くラッピングした。

「すまない、遅くなった」

待ち遠しかった声にレイナがバッグから顔を上げた。

「レオ、ン……」

笑顔で迎えた…が、表情が固まってしまった。そんなレイナにレオンも苦笑した。彼の手には紙袋が幾つか握られており、それぞれの中にはまた幾つかの箱が入っていた。そう、きっとチョコレートだ。……もちろん、レオンがレイナの為に用意した物ではなさそうだ。

「あー…本当にすまない。無神経だと思ったんだ、でも待たせてるし一回家に帰る訳にもいかなくて」
「それで来ないで良いって言ってたのね」

バツが悪そうにするレオン。今日の昼に彼から一度連絡があり、迎えに行くから家で待っておいてくれないか、と待ち合わせの変更をお願いされたのをレイナは思い出していた。待たせたくない、と気遣ってくれたんだと思ったレイナは強引にも自分が出向くと押し通したのだった。
少しでも長く一緒に居たかったんだもん、仕方ないわ

「良いの、気にしないで」

優しい彼は断われずに受け取ってしまうんだろう。

「良かったら…俺の家に寄っても良いかな?」
「えっ?」
「持ったままデートって訳にはいかないだろ?」


一緒に駐車場へ車を取りに行き、乗り込む助手席に相変わらずレイナは胸が高鳴る。後部座席にチョコを置いておけば、別にデートだって出来る気はしたのだけれど、行った事のない彼の家を見てみたいという好奇心が生まれてしまった。

「ねえ、レオン?仕事だったんだし、夕食まだでしょ?…今日は私が何か作ってあげようか?」
「本当に?」

運転するレオンは一度とチラッとレイナを見て嬉しそうに言った。

「料理が上手いって噂は聞いていたんだ」
「…クレアったら」


車内の会話は帰り道をあっと言う間にしてくれた。
レイナはカチャリと音を立てて回る鍵を見つめてた。
私彼女でもないのに厚かましくないかな…
今更こんな事ばっかり浮かんでくる。レイナはバッグを知らず知らずギュッと握りしめていた。

「緊張するのか?…まあ、男の部屋に入り慣れてるよりは良いか」

とって食ったりはしないさ、とレオンのからかう言葉に、レイナは少し膨れた。

「大丈夫よ、"慣れてる"から」

そう強がればレオンは声をあげて笑った。
彼は簡単には自炊はするらしく、それなりに食材などが揃ったキッチン。
誰かにご馳走するなんて久しぶりね。
レイナはレオンの嬉しそうな顔を思い出して腕が鳴った。


* * *


「ご馳走さま、美味しかったよ。噂以上だ」
「満足してもらえて良かった」

カウンターキッチン越しの会話。たまに向けられる視線を待つ様にレイナはずっとレオンを見つめていた。それに、食器の片づけをしようとしたレイナを制止してレオンが洗い物をしていて、その光景もなんだか不思議だったからだ。そこまでさせる訳にはいかない、と言う彼の押しに負けて、レイナはソファーでちょこんと座って待っていた。

「レイナは明日は何時から仕事なんだ?」
「明日は休みよ?でも遅くなり過ぎない様には帰るね」
「…予定でも?」
「ううん」
「そうか…」

少し考えた様に黙ったレオンは最後のお皿を洗い終え、水の音が止んだ。レイナは部屋が異様に静かに思って、レオンを見るのを辞めて俯いた。
チョコ、いつ渡そう…
そう思った時にレオンが持ち帰った紙袋が目に入った。アメリカでは義理チョコという物は存在しない。男性からのプレゼントが比較的多いこの国で、これだけチョコを貰えるのは人気があるという事だ。

「何か飲む?ワインでもどうかな?」
「あ、レオンは?」
「俺はやめとくよ、君を送っていかないと」
「一緒に飲むなら飲むわ。帰りはタクシーで良いから」
「…じゃあ少しだけ」

グラスとボトルを持ってくるレオンと紙袋を交互に見た。
部屋だって綺麗で料理も褒めてくれて、洗い物も進んでしてくれる。紳士だけれど、男っぽいところもちゃんとある。
モテないわけないよね……やっぱり。
分析しているとグラスにはすっかりワインが注がれていて、レオンが乾杯を促した。

「チョコが気になるのか?それともチョコ好きかな?」
「気にしてないわ。…チョコが好きなだけ。甘党なの、私」

レイナが強がって彼の冗談に乗る形で反論したので、レオンが笑った。

「開けようか。一人じゃこんなに食べ切れない」
「食べ切れないぐらい貰うなんて優しいのね」
「直接渡されるなら断ってたさ。そうしたら、今年はデスクに置いてあったんだ。持って帰らない訳にはいかないだろ?」

肩をすくめてそう言ったレオンに、レイナは嫌味っぽくに言った事を少し後悔した。彼が包みを開けていくのを見つめながら、ワインを口に含むと程よい渋みが香りと共広がった。テーブルに置かれたチョコは手作りではなく有名高級店のモノだ。レオンが促す様に差し出してきた。

「あ、ありがとう」

もちろん美味しい。甘すぎない上品な味。このチョコの渡し主は、まさか女の口にこれが入るだなんて思っていないだろう。レイナは自分と同じ様に一つ摘んで口に運び、美味しいな、と呟いたレオンをじっと見つめた。その視線に気づき彼がフッと苦笑した。

「そんなに今日の俺は変かな?」
「え…?そんな事ないわ」

そう言われてからもワインがレオンの喉をゴクリと通り、それに見惚れてしまっていたレイナは彼からの挑発的な視線に気付き自分の手元のワインの香りを楽しむフリをした。

「ほら、そうやって見てる…。それに、どうして今日にしたんだ?」
「デート?」
「ああ。明日なら二人とも休みなのに」
「あ…それは……ほ、本当は明日予定があったの…」
「バレンタインデーだからじゃなくて?」
「ち、違う…」

深みに嵌っていく。意地を張っているのが苦しくて正直に言ってしまいたいがレイナの性格はそれを許さない。
レオンがレイナの隣に腰掛け、重みで少し揺らぎながら座高差の分彼を見上げた。

「期待していた俺は間違いだったか?」
「期待?」
「部屋に来るなんて、今日はやけに積極的だ。それにいつもよりセクシーな格好だからな」

冗談なのか本気なのか、レイナには表情を読み取れないでいる。ただ、真横で至近距離にいるレオンの唇が気になって仕方なかった。
空気に飲まれ、強がっていた自分が何処かへ行って、催眠術にかかったようにレイナは口を開いた。

「今日じゃないと…意味がなかったの」
「それはバッグの中の物のことかな?」
「わかってたの?」
「君がバッグをいつも以上に気にしている様だったから」

そっと出したその箱をレオンは受け取ると、ありがとうと礼を言い、嬉しそうに開けて一つ口に含んだ。レイナはさっき食べた高級店のチョコを思い出し少し焦った。

「…!美味しくはないかも…お菓子はあんまり作らないから」
「うん、美味しいよ。心がこもってる」

さらっと言われて、恥ずかしさで俯くレイナに何処から出したのか、レオンがリボンをあしらった手のひら程の箱が手渡し、開けてくれ、と付け加えた。

「レイナがくれた事に意味があるんだ。奥手なのも悪くはないが…」

レイナは不思議そうにそれを解いていくと、中には可愛らしい腕時計があった。思わぬバレンタインプレゼントに見惚れるレイナにレオンはその手を包み込む様に重ねた。

「今日ぐらい積極的に意思表示はしてくれないとな」
「え…?」
「…俺の、バレンタインになってくれ」

バレンタイン=最愛の人。その式とが頭の中で成立したレイナはみるみるうちに逆上せそうなぐらいに顔に熱が集まった。嬉しさでいっぱいで言葉が出ず、レイナはこくこくと何度も頷いた。

「あ……私…」
「大丈夫、とって食ったりはしないさ」

耳元で、今日のところはチョコで我慢しておくよ、と囁いたレオンに、レイナは恥ずかしさで何とも力の無いパンチをお見舞いしてしまった。

「クレアに言いつけてやる!」
「それは怖いな」

レオンは微笑むとレイナを抱き締め、優しく口付けた。それはチョコの香りのするキスだった。



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Be my valentine.
本当に言うのだろうかwネット検索ですw
150214


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