05

連連れてこられたのは、小さな小屋。恐らくは農民の住まいだと思われた。しかし私には私の前を行くオレンジの君が農民だとは思えなかった。
まず筋肉の付き方が違う。彼は恐らく兵士、それも先ほどの態度から見るに歩兵などではなく、恐らくは忍の様な仕事であると見当がついた。しかしこの服は頂けない。潜むどころか逆に目立っている。もしかしたらこれで敵の裏をかいているのかもしれないが。


「さぁ、入って下さい」

「?、はぁ」


彼が何かを言った。恐らくはこの小屋の中に入れ、ということらしい。大人しく入れば中にはもう一人、緑色の服を着た武人らしき人物。
彼の腰にある剣に、自分が丸腰であることを思い出した。夕食を食べに行こうとしていたのだから仕方がないと言えば仕方がないのだが、何時何があるか分からない世で、少し油断していたのも事実だった。短刀は懐にあるが、大の男二人相手に、この狭い場所で戦うにはかなり分が悪い事は明らかだ。まぁ戦うと決まった訳ではないのだけれども。


「…どうも」


とりあえず軽く頭を下げると、眉間のしわが増した気がした。きっと苦労しているのだろうと思う。表情が仕事をしない弟を追う部下そっくりだ。
彼に同情の視線を向けていると、先ほどからごそごそと部屋の隅で何かをあさっていたオレンジの君が、小さな小瓶に入った液体を差し出した。瓶の中ではピンク色の液体がちゃぷんと揺れている。
ご丁寧にもふたを開けて手渡され困惑して彼を見れば、どうやら飲めといいたいらしく奇妙なゼスチャー付きで返された。


「…いや、無理、でしょうこれは…」


この段階では彼らが敵なのか味方なのか判断はつきにくい。そんな輩に渡された、どう見ても怪しい物など口にする方がどうかしている。そう主張したくともあいにく言葉が分からない為、こちらもゼスチャーで返すことにした。

どうにかこうにか、瓶の中身が分からない限り口にすることはできないという私の意思は伝わったらしく(たとえ中身が分かったとしても今の段階では飲む気はさらさらないけれども)、彼は困ったように後ろにいた例の苦労人男に振り返った。多分きっと、あの苦労人男はオレンジの君の上官なのだろうと思われた。
それから何やら話している二人を横で見ていると、不意にオレンジの君が先ほどの鞄をあさり、もうひとつ同じ小瓶を取り出した。

私の方を向いた彼は安心させるかのように一度にこりと笑うと、自分が持っていた小瓶の中身を一気に飲み干した。




***
オレンジの君連呼しててなんだかいたたまれなくなった


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