06


ユーリ陛下と同じ世界から来たであろう双黒の姫君は、かなり警戒心が強いらしい。渡された瓶を見て顔をしかめた彼女に、どうしたものかとヨザックは頭を抱えた。
そもそも自分についてきてくれたこと自体がもしかしたら喜ぶべき事だったのかもしれない。あの魔族に囲まれていた状況を打破したのがヨザックだったからこそ、ここまで特に暴れもせずついてきてくれたのだと。

しかし自分たちはまだ信用されてはいないらしい。ユーリ陛下はあのアメフトマッチョから救い出したコンラッドをあっさり信用御したと聞いていた為、地球とやらから来た人物であるのならと甘く見ていた。もちろん彼女の判断は正しいものだとは思う。思うのだが。


「姫さん、これ飲んでくれなきゃ言葉が分からないんですって…」


しかし悲しいかなヨザックの言葉は彼女には届かない。瓶の中身は毒女アニシナ印の「ことばがまるわっかーり君」である。今回は魔力のない自分達の様な者にも効果があるよう改良された、らしい。しかし毒女曰く魔力が薄ければ薄いほど副作用として激痛が伴うとか何とか。恐ろしい代物である。アニシナ自身は等価交換です!と言っていた様な。
まるわっかーり君を出した瞬間自分の上官の眉間のしわがより一層深くなったのをヨザックは見てしまった。ご苦労様です閣下。

どうします、と後ろの上官を振り返ればお前が飲め、と何とも理不尽な命令が下された。


「私も何度ももにたあされたブツだ。死にはせん」


そういうグウェンダルの表情は真っ青である。ますます飲みたくない。しかしこれを飲めば自分は彼女と意思疎通ができるようになる。彼女が薬を飲んでくれるよう説得ができるようになるのである。
しかし問題は自分の魔力の量だった。ヨザックは自分には魔族の血は引いていこそすれ、ほとんど魔力という物は存在しないのだという事も自覚していた。
ヨザックは諜報部員であるため拷問訓練も、実際の拷問も受けた事はある。しかし誰が好き好んで激痛があると分かっている物を飲もうとするのか。しかも今回は毒女アニシナ作、それも大概の事では動じない鬼の様な彼女が自ら激痛があると言いきったのだ。どんな目にあうのかは目に見えている。


「閣下…」


怨みがましい視線を向けてもふいとそらされた。立派な指揮官であり武人である彼であっても、毒女には敵わない。ヨザックは自分の上官と毒女の上下関係を見た様な気がした。


「閣下の方が痛みも少ないでしょうに…」

「お前の犠牲は忘れない。」

「え、何ですかこれ死亡フラグ?」


ぼんやりと事の成り行きを見守っている姫君の方を見れば、にこりと笑顔を返された。(でも多分これは社交辞令の様なものだ)


「怨みますよ姫さん…」


そういいながらも、この警戒心の強い彼女に余計な警戒を与えないように、ヨザックは一度にこりと笑って見せ、今から地獄を見るであろう薬を一気に飲み干した。





prev next
bkm

index
×