04

戴冠式の途中、陛下は地球に帰られた。そして間をおかずまたもう一人、双黒が現れた。それは本来ならあり得ない事。その理由は未だ分からなかった。その場所がフォンヴォルテール領の国境に近い場所であったために仕事が押しまくっているのも関わらず、閣下と凄腕諜報員グリ江ちゃんがここにやってきたというわけである。
魔族の奴らに囲まれても何にも言わずに事態を静観しているらしい相手に、ヨザックはおやと首をかしげた。自分はちらりと見ただけであったが、元気の塊のようなユーリ陛下を思い出し、今度のお方は偉く静かな方だなと感じた。

とりあえず突然現れたこのお方にちょっくらビビってしまったらしい魔族どもに声をかけると、これまたかなりビビられた。いくら私が美しいからって失礼ねーぇとしなを作って言えば、少しだけ人混みが割れた。ほんとに失礼ねーとぶつくさ言いながらも、丁度いいとばかりにヨザックは割れた人垣の中に体を割り込ませた。


「おーい、大丈夫ですかい?」


みればこの魔族たちに囲まれて茫然としている(まあその気持ちは分からないでもないが)、これは、女、なのだろうか。びしょびしょに濡れた髪を乱暴に掻き揚げているせいか、遠目には判断がつきにくかった。
声をかけた瞬間、がばりとこちらを向いた彼女?の視線はまたすぐに宙に泳いだ。理由は何となく分かったので(みんなひどいわーグリ江泣いちゃう!)それをあえて無視して声をかける。


「ちょっと失礼しますよ、と」


そう言って腕を掴み持ち上げ、初めてこの双黒の人物が女なのだと分かった。彼女は驚いたようにこちらを見ていたが、静かにね、とヨザックが口元に指を立て合図をすれば理解したのか何も言わずに立ち上がる。


「もーこの方は双黒のお姫様よー?びっくりしたのはわかるけど、武器なんかむけちゃだめじゃなーい」


おどけた様にそういえば、茫然と様子を見守っていた彼等は今初めて気付いたかのように目を見開いた。
いや、まずそこは気付けよとは思ったが、気の小さいこの種族は、それどころではなかったらしい。
あわてて膝をつき謝罪の言葉を述べる彼等を眺めた後ふと横にいる彼女に視線を戻すと、言葉は理解できずとも謝っている事は雰囲気でわかったのか、曖昧に微笑んでいるのが目に入った。

(ほんとに大人しい方だな)

大丈夫だろうかと不安になったが、彼女は未だこちらの言葉が理解できていないであろう事を思いだす。でもまぁとりあえず着替えて落ち着くのが先ね!とヨザックは再びグリ江ちゃんモードに意識を切り替えた。


「心細いとは思いますけど、まぁ危害は加えないんで、ちょっくらついてきて下さいねー」


言葉が通じていないのは分かってはいたが、一応声をかけ、ヨザックはこの姫君の手を引いた。



***
もはや諦め状態の無気力




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