03

私に落ち度はなかったはずだ。何度も先ほどの事を思い出してみたが、結果は全て同じであった。つまり理解不能。やはりあれはどこぞの誰かのバサラ能力だったのだろうと結論づけて、とりあえず自分の置かれている状況を先に整理しようとため息をついた。先に心の中で謝っておこうと思う。真面目で苦労人な部下たちよ、私まで仕事ほっぽりだしてすみませんでした。
でもこれで元親が心を入れ替えて仕事をしくれると私としても万々歳だ。まぁ私としては帰れるかどうかも分からないが。


「あー…初めまして?」


ひとまず現実をみるかと、目の前で何か訳のわからない事を叫んでいる、マグロ?に声をかけた。(いやでもこのマグロ足生えてるんだけど…!)というかここは一体どこ。何だこの私の周りを囲んでいる百鬼夜行も真っ青な連中は。
目の前に光る刃に、何もしないからとりあえずその物騒な物をしまってくれと言いたい。言葉が伝わっていないっぽいので何とも言えないが。確かに全身びしょ濡れの私は怪しいかもしれないが、断じて目の前にいるこいつらほどじゃないと思いたい。こいつらより怪しかったら人として終っている気がする。

その時、一瞬だけ人?ごみが割れた。少しだけ高めの、困ったような声が聞こえる。それに反応して顔を上げると、百鬼夜行もどきの中で初めて見た、人間の形をした人物。このチャンスを逃してなるものかと、声をかけようとしてそちらを見上げ―やっぱりここはすっぱりきっぱり人に頼ることは諦めて、自力で何とかしよう思った。
見えたのは綺麗なオレンジと見事な筋肉。しかも思わずほれぼれとしてしまうほどの上腕二等筋。だが着ているも物が悪かった。なんで、女物。
自分の記憶が正しければ、あれはドレス、という物だった気がする。もちろん女物だ。たしか奥州の独眼竜が、南蛮から取り寄せていた様な。

さぁどうしようかと思考を飛ばしかけていれば、ぐいと腕をひかれ立ち上がらせられる。自分の手を掴んでいるたくましい腕の持ち主を見れば、先程の、あー…女性、であった。その彼、いや彼女は黙っていて、とでも言いたげに口元に手をやると、何事かを先ほどのマグロやら何やらに言った。やはり言葉は分からないままだった。

しかしオレンジの君(命名ラシャ)が何かを言い終わると、殺気立っていた連中が一気に何か恐縮したような雰囲気になった。
そして彼等は、名前をもう一度見たかと思うと一気に膝をついて何かを叫んだのである。

(雰囲気から見て、謝罪、)

一体彼女が何を言ったのかは分からないが、こんな人外どもに頭を下げられることには違和感しかない。いくら四国を統一した長曾我部軍であっても、さすがに百鬼夜行は従えた覚えはない。信長辺りならやってのけてそうだけれども。想像してみても全く違和感がないけれども。

何にせよ言葉が分からない事は痛手だった。先ほどの中途半端な記憶からでは、今の現状は全く把握できなかった。
夢か。そう思ったが未だ自分の手を掴んでいるオレンジの君の体温は暖かいし、先ほど意識が戻った時に床に打ちつけた(正確には打ちつけられた)肩はまだ痛む。


「何が何だか」


もうお手上げである。いくら私が軍師であっったとしても、こんな場合の対処法なんて見当もつかない。ふんふんと鼻歌交じりに私をどこかに案内するオレンジの君に、まぁ先ほどのマグロたちの様子を見る限り殺される可能性は少ないだろうと見当をつけ、諦めて大人しくついていくことにした。



***
オレンジの君は笑う所


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