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今回の目的は監禁だ何だと噂になっている自身の存在を周知させるためだった。しかしやはり友好的であるのは海軍のみらしく、楽しげな笑い声に混じり上品とは言えない視線が突き刺さった。

政権のため繋がりを作っておきたいとありありと分かる輩、そしてぴりぴりとした空気をまとった軍人達。双黒が二人もいれば政権争いが起きることなど目に見えている。

見定められているのだ。この晩餐で、私をこの国にとって益と思わせなければならない。所詮女よと舐められる訳にはいかない。それは何もこの場にいる者たちだけではなく、グウェンダルやヨザックも含まれる。政治的な場でヘマをする様な人間であると判断されてしまえばそれこそ籠の中の鳥となる。
味方を作り、しかし敵を作らず。やれるやれないではない。私は何があろうとも生き残る。


「しかし私であればできて当然」


戦に出る度、何度も言い続けた言葉に儀式の様に身体は反応する。今、戦うべき戦場はここである。




綺麗に着飾った若いお嬢さんがたから受けるのは純粋な嫉妬の視線から、どうやら今隣で私をエスコートしている人物は予想に反し人気のあることを知る。確かに顔は整っているし、位も高い。今は眉間の皺も意識しているのか少し和らいでいる為、余計だろう。その隣にいるのが二十もとうに過ぎた女であれば(こちらの婚期がいくつなのかは知らないが)誰だって面白くはあるまい。双黒であるというだけで想い人の隣にいるのである。


「姫様」

「……私にご用が?」


それでも、挨拶に回るグウェンダルについていれば、あらかさまな好奇の視線からは守られる。これから嫌でも関係を持ってゆくであろう人物とは、紹介をうけてひとことふたこと話し、顔と名前をインプットする。グウェンダルの方もそれを分かっているのか、説明は丁寧だった。


「閣下ならあちらにおられますよ」

「いえ。私はフォンシュピッツヴェーグ卿シュトッフェルと」

「…ああ」


にこやかに話す男にグウェンダルの苦労を知る。先の戦のことを考えれば目の前のこの男を私に近づけたくはないだろう。視界の端でヨザックが慌ててこちらに来るのを捉える。相手の男も可哀想に、グリエちゃんには振られたようだ。
貴族たちに捕まっているグウェンダルはしばらく輪を抜けれそうもなく、うまく人の流れを読んだなと小さく舌打ちした。


「そんな堅苦しい呼び方をしなくとも」

「姫様はこれからの眞魔国を担って頂かなければならない重要なお方ですから」

「もうそんな歳でもあるまいよ」

「いやいや、まだまだお若くいらっしゃる。魔族の歳の取り方をご存知ないと見える。そうだ、ご存知といえば姫様は先の大戦のことは?」


知らぬ知らぬとまるで無知であると決めつけるかのような言い回しに眉をひそめた。そして目の前の男が言った言葉に少し、周りの空気が変わる。この場でその話を持ち出せば嫌でも目立つ。


「話には」

「それはそれは…だがあの戦は必要なものでした。多大なる犠牲を払ってでも、人間どもに我ら魔族の、」

「……あまり、ここで話される内容ではないと思いますがね」


気付いていないのか、気付いた上で話をしているのか。彼が戦について話す度に周りからの視線は厳しくなっていた。


「それで、二人目の双黒である私に近づいて何をしたいの?また戦でも起こす? 」

「あんた、いい加減に…!」


人ごみをかき分けたヨザックが発した言葉は私か彼か、どちらに向けられたものなのか。


141021


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