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「毒殺?」

ヨザックの言葉にグウェンダルが不快気に眉をひそめた。先の大戦の頃はそれはもう警戒してもしたりないほどだったそれに、嫌な記憶も共に蘇る。しかしここ何年かはそれも落ち着いてきているはずだった。


「いえ、姫さんは俺らのことは信頼してくれてると思いますよ」


ある程度は、とヨザックが皮肉気に笑う。忌々しげな顔をしているのは、彼も大戦の記憶が蘇ったのだろうとグウェンダルは息を吐いた。ヨザックはヨザックで、口では憎まれ口ばかりたたいてはいるがラシャの事をきちんと見定めている。
グウェンダルもヨザックも、ラシャがあちらの世界でどんな役割、地位にいたのかは確信は持てずともなんとはなくは察していた。


「それで」

「ええ、俺が持っていったものは残さず食べてくれるんですけどね。見識のない兵士や女中が持って行くと」


口には含むが毒殺を恐れた食べ方をする。グウェンダルにも身に覚えのある話だった。もはやそれは一種の習慣だろう。今更本人の意思でどうこうできるような問題でもない。
グウェンダルは書類に向けていた視線をヨザックに向けた。


「どんな戦乱の世を生きてきたんだか、ねぇ」


昔の隊長みてえ、とヨザックは苦く笑う。

ラシャという人間(と、本人は堅くなに主張している)は、努力の塊のような人物だった。しかしそれはグウェンダルにはどちらかと言えばコンプレックスの塊のようだとも感じられた。そしてなにか、ひどく焦っている、もしくは恐れているようにも思えた。


「ヨザック」

「はい?」


次に自分の上司から発せられた言葉に、ヨザックは目を見開いた。






何故かはわからない。分からないが、今グウェンダルと共に食事をしているとう事実にラシャは首をかしげていた。
広いテーブルに向かい合って座っているグウェンダルは何か話すというわけでもなく黙って食事を進めていた。マナーについてはすでに一通り学んでいるので問題はなかったが、どうにもこの沈黙は居心地が悪かった。


「閣下?」

「ここには信頼できうる部下しかいませんよ、姫君」

「…そう」


皮肉げに話しかければ同じように返され、それでも知りたかったことはきちんと返ってきていることにさすがと嘆息する。


「何の心変わりかと思って」

「さて。ああ、先に好きな方を選んだら良い。」

「…あ、りがとう、」


何種か出された料理を前に、グウェンダルは好きなものを選べという。そしてラシャが選んだ後に己もそれを選ぶ。繰り返せば、嫌でも何故彼が今ここで自分と共に食事をしているのかがわかり、息が詰まった。
彼、いや彼らは、優しい。もし自分が同じ立場だとしても、到底真似できそうにもない。冷酷にはなれども、それは優しさとはほど遠い。

自身に先に料理を選ばせるということは、今この場では毒殺の心配はないと暗に言っている事と同じだった。もはや習慣になってしまった警戒に、それを知って認めた上で、そしてこれからは自分と食事をとるようにと言ったグウェンダルの言葉に、食事をする手が震える。言葉は少ない。それでも、彼の行動は多くのことを伝える。


「ありがとう…」


こちらにきて、初めて、少しだけ肩の力が抜けた様に感じた。





131002




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