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夜、独りベッドの上で海図を広げた。薄暗い明りの下、すっかり冷めてしまった紅茶を口にしつつそれを眺める。よくできた海図だった。この船の主は自分ではないが、海に出る以上その情報を頭に入れておかねばどうしても不安になる。面倒臭いことだと息を吐き、ついでと渡された眞魔国とやらの地図にも目を通した。
この地図を借りたのはこの船の航海士だ。海図を借りたいという無理難題にも予備があるからと快く渡してくれた。もう少し人を疑った方がいい気もするが、多分きっとこれが双黒の威力だろう。

この周辺一帯には暗礁が多い。数は少ないが渦潮もあるようだった。その上此処は人間の土地であり、海賊行為をする輩も多いからといわれ、なんともいえぬ気持ちになる。海賊とか懐かしい響き。四国に帰りたい。
最低でも眞魔国の領土に入るまでは気が抜けないと、そして何かあった場合は部屋の鍵をしめ、決して出ないようにしてくれと何度も念を押された。どうやら海賊との遭遇率はかなり高いらしく、周りの兵たちも少しピリピリとしていた。



部屋を見渡せば壁には申しわけ程度の装飾ではあるが、剣が飾られていた。柄の部分には宝石がちりばめられ、美しく精巧に作られているがあまり実用的ではなさそうだった。

確認したところ剣自体は本物であったので、何かあった時がはそれを使うほかなさそうだった。何もないことを祈るが、なんとなしに嫌な予感もする。用心するに越したことはない。懐には自分が元から持っていた短刀があるが、これは護身用のものであり、あまり戦闘には向かない。

大体頭にたたきいれた海図から視線を外し、壁に飾られた剣の一つを手にとる。装飾のせいか少し重めのそれを手に馴染ませるように一振りする。刀が近くになければ気を休める事もできないなど、とんだ職業病だと失笑した。それでも手の中にある重みにどうしようもなく安堵する。
そっと自分の脇に剣をおけば、脳裏に浮かぶのは長曾我部にある自室だ。はからずも故郷に置いてきてしまった愛刀に、心の中で小さく謝った。



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