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船は戦艦という割には簡単な作りだった。ある意味では機能的だが、敵が内部へ侵入した際はそこが仇となる。

この鉄の塊を浮かす技術は尊敬に値する。まりょくで動くらしいえんじんとやらも。だが、内部構造は単純だ。仮にも戦艦であるならば、大切なものはもっと奥深く、たどりつけないようにしなければ。船自体の作りをざっと見て、その作りを大体頭に入れる。

長曾我部の戦船は南蛮の影響を受けたせいもあるが、内部は迷路のようになっていた。行き止まりがあり、分岐点がある。分かりにくい構造は慣れたものでなければ迷い、造船図があったとしても元親と自分のいた部屋にはたどり着きにくい構造になっていた。
攻め込むに難しく、守るに容易いその作りは、中に迷い込んでしまえば袋の鼠であり、それだけで十分な戦力になった。最も、バサラ者にとっては全て破壊してしまえばそれまでという皮肉さもあったが。


「ここが姫さんの部屋です」

「あまり綺麗ではなく申し訳ないがね」


ヨザックと船長に案内された部屋は確かに小ざっぱりとした部屋だった。白を基調とし、明るさを取り入れた部屋。一応船の中では安全な場所にあるという部屋。望郷の念などわきもしない無機質な船内。何もないけれど、しかし衛生的で綺麗な部屋だった。


「姫さま、船内はご覧になりますか?」

「部外者がみても良いものなの?」

「…まあ、さすがにお見せできないところもありますが。それ以外はお好きにして下されば」


そう言って船長は大きく笑った。双黒だの姫だのと言っても見せられない所は存在するのかとその矛盾に笑いそうになるが、自分だっていくら地位が上だとはいえ今日初めてあった者などに戦船の中を見せたいとは思わない。
まだ彼にとって私は敵か味方かは分からないのだ。賢明な判断だろう。それでも船内を自由に歩き回っていいというのは十分すぎる譲歩だ。きけばヨザックが常に護衛として付くらしい。だからかと納得しつつ、ヨザックの方に向き直る。


「じゃあとりあえず、散歩に付き合ってくれる?」

「…仰せのままに、双黒の姫様」


そう言ってにこやかに冗談めかして笑う。ヨザックもそれに付き合うかのように手を後ろに回し軽く会釈する。しかしお互い、目は笑ってはいなかった。


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120608
長男どこいった



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