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夜夜は、あまり気持ちよく眠れたとは言い難かった。一晩中、恐らくはヨザックであろう監視の目があるところで安眠しろという方が無理な話である。
さすがに部屋の中までは入ってはこなかったが、正直不快だった。気配を消すなら消す、消さないなら消さないで堂々とおればいいものを、中途半端にするから余計に気が散った。逃げる気はないことは向こうも分かっているのだろうから、恐らくは監視が半分護衛が半分といったところなのだろう。護衛をつけるくらいなら武器を渡してくれ。
遠い故郷となってしまった四国の自室に置いてきてしまった愛刀に思いをはせる。何故肌身離さず持っていなかったのかが悔やまれた。

しかも朝早くからヨザックが見事な上腕二等筋をむき出しにした女装で部屋に入ってきた。不快だ。
起きてはいたが朝くらい静かにできないのかとどついておいた。




戦中の兵士の携帯食料を思わせるような簡単な食事を終えた後、小屋の外に出れば昨日私が引き上げられた海が目の前に広がっていた。
天気は快晴。潮風が吹き抜ける。美しい海だった。四国も、この世界も、この母なる海は何も変わりはしない。何事もなかったかの様にこの世界を覆う。私の様な小さな人間が一人、場所を変えたところで何も変わらず、今日もそこにある。

眼を細め、海面を見つめていればヨザックが不思議そうに名を呼んだ。見れば、何隻かの船が少し先の小さな港らしきところに停泊していた。


「あれは?」

「我が海軍です。姫さん、船酔いとかはするタイプですか?」

「ご心配なく。生まれてこのかた、したことはないよ」


そういえば、厳つい海の男(といっても長宗我部の兵士よりかは幾分柄がよさそうに見えた)がニヤリと笑って口を開いた。


「双黒の姫様。悪いがこれは軍艦です。貴女様が乗ってきたであろう船とは一緒にして頂いては困ります」


正直私が今まで乗ってきた船も海賊船か戦船しかないのだけれども。やはり海軍といえども海の男。誇り高く、ついでに柄も悪いらしい。
昨日グウェンダルとヨザックに受けた説明では双黒はそれだけでこの国のトップに立てる地位であると聞いていたが、海の男と言うのは本来力あるもの、己が認めた者にだけ従うといった荒くれ者が多い。

今私の言葉に馬鹿にしたような言葉を投げたこの男も、双黒というだけでホイホイと従うような阿呆共とは違い、自分の使えるべき者を自分の目で見て判断するつもりらしい。


「…面白い」


既にかよわき女子供のふりをする必要はなくなっているのだ。ならばただの王座に就くお人形にされないためにも、今この海軍を味方につけておけば色々とこれから有利に物事を進める事が出来る。
伊達に長宗我部の軍師をやっていたわけではない。

目の前で名乗るこの男の地位は決して低いものではなかった。双黒の者を迎えに来れるという大役を仰せつかった、と本人が言っているように、つまりそれだけの地位があるということだ。問題はどうやってこちら側につけるかである、戦でもおもれば事は簡単に進むのだろうが、そう簡単に都合よく起こるものでもないしそんなことで無駄な血を流すものあほらしい。


「とりあえずはこの男の人となりを見てから、かね」


長宗我部の戦船とはいささか違った作りの船を眺め、どうせならこの船の見取り図も見せてもらえたりしないだろうかと考えた。



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120425
見取り図(造船図)は長宗我部に持って帰る気満々。


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