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要約してしまえば。

この国の王が自分の故郷とやらに帰ってしまったために慌てた神官が呼びかえそうとした結果、何の手違いか私が呼び寄せられた、ということらしい。
あっさりと手違いを認めとしまえばいいものが、呼び寄せられたのが黒髪黒目の双黒だったためにそうもいっていられなく、ついでにこの国の神とやらー眞王?のご意志に違いないということになった。その回りくどい説明でなにが言いたいかと言えば恐らく影武者にちょうどいいから生かしておいて損はないということだろうが。


「で、私は何をしたら?」


何を言われたところで正直長曾我部に関係のない事なんぞこれっぽっちもする気はないが。


「いいえ、なーんにも?貴女はそこにいて頂けるだけで十分ですよ」


ヨザックが嫌な笑みを浮かべて言った。嫌な感じはするが完璧な笑みで。何だかんだ言って祭り上げたところで政治に口出しさせる気は最初からないらしい。


「毛色の違う愛玩動物みたいね」


王ーつまりは領主であろう者なら自分に万が一の事があったとしても暫くはーせめて次期領主が決まるまでは国が正常に動くよう臣下選び、法をしいておくべきだ。その前に国を放って故郷に帰るなど言語道断。王で在ることを放棄したととられ下剋上が起こっても文句は言えない。というか臣下の信頼だださがり。そんな王の元で何かする気など全く起きない。

私を元の世界に返すのは最初に手違いを起こした彼らがすべき当たり前の事であり、そもそも私に何かしなければならない義務はないはずである。
そんな事を言ったところで帰すことを条件にまた色々言われる事は目に見えているので何も言わないが、このままではそんな阿呆な王のせいで反乱や一揆でも起きた時に私の首を差し出されかねない。それは非常に困る。

恐らくは私が帰る方法を知っているのはこの国の高位神官のみ。国家とはそういうものである。
まず第一に帰らなければならない私にとっては絶対的に不利な交渉である。ここで放り出されたとして傭兵などをしながら帰る方法を探す手もあるがそれでは時間がかかりすぎる。

手っ取り早く、なおかつ良いように利用されないためには、私が厄介な者であり、仮とはいえ無条件に玉座につけては危ないと思わせる事である。つまり、か弱い女子供である必要性はなくなった。
意識し普段通りーよりも、外交時の時に近い表情を出せばグウェンダルと名乗った男が顔をしかめた。ヨザックの方は先程の発言のせいか少し苛立ちが目立つ。


「まぁ、双黒に統治権があると言いだしたのはそちらだけど。大人しく玉座に収まる義務はこちらにはない」

「あんたっ…「ヨザック」


殺気立ったヨザックをグウェンダルが手で静かに制した。


「それはここで私の一存で決めれることではない。とりあえず、我らと共に眞魔国に来て頂けないだろうか」


逃げられた。私としてはここで早いうちに話をまとめておきたかったが、グウェンダルの方が話が分かっていたらしい。


「…賢い案だ。国でなら私が断った所で好きなようにできる。少なくともここよりかは逃げにくそうだ」


案にいつでも逃げれる事をほのめかせば、少しだけ焦ったかのようにグウェンダルが口を開く。


「ここは人間の土地に近い。双黒であることは危険だ。」


きけば双黒は珍獣扱いらしい。少なくともこの外見を餌に寄ってきた人間からおい剥ぎをできることがはからずも判明。なんでもいいからとりあえず武器が欲しい。刀が恋しい。というかもうめんどくさい帰りたい。腹の探り合いはどちらかといえば好きだし得意だが無意味な事は嫌いである。


「…警戒する気も分かるが、こちらは貴女を害する気はないし悪い様にはする気はないのは分かって頂きたい」

「正直信じられると思う?そんな所にのこのこついて行くほど阿呆になったつもりはないけど、それでも言葉の事に関しては感謝はしてる」


あれがなければ逃げるという選択肢すらなかった。そもそも影武者にするだけなら言葉などわからないまま幽閉してしまった方が手っ取り早い。眞魔国とやらは信じられない。国家とは人間一人など切り捨てても痛くもかゆくもないものである。たとえそれが王であったとしても代わりはすぐに立つ。


「…だから、今は譲歩する。だが私に不条理と分かった時点で何らかの対策は打たしてもらう。これで手を打てるなら、今は大人しく従おう。」

「…十分すぎる譲歩だ」

「話が早くて助かるわ」


グウェンダルが小さく息をついた。




***
120420





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