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ヨザックは薬を飲んだ後のラシャの様子に眉をひそめた。自分も激しい痛みに襲われたが、ラシャの苦しみ方は尋常ではなかった。
彼女には魔力があるはずだったし、苦しみも少ないはずだった。一瞬赤の魔女がのお決まりのセリフ「失敗作です!」が頭の中をよぎったがいやいやと首を振り、あわてて名前のそばに駆け寄る。しかしヨザックがラシャを支えようとするより一瞬早く、横から出された腕がしっかりと彼女を支えた。


「閣下!?」


予想外の事にヨザックが驚いて目を見開いている間に、グウェンダルは素早く名前の腕の下から彼女の体を支えた。


「が、…ッは、」
  

息をするたびにひゅう、と嫌な音が漏れていた。戦場で幾度となく聞いた音にヨザックは顔をしかめた。あれは呼吸器に致命傷をくらった時の音だ。ラシャの腕が喉に伸び、ぐっと自分自身の喉を押さえた。あれでは自分の首をしめかねないと慌ててヨザックが声をだそうとした時、彼女自身がその腕をグゥェンダルの腕まわした。


「…姫さん?」


何かがヨザックの頭に引っかかった。脳内で自分の直感が警鐘を鳴らす。
考えろ考えろ考えろ。何がおかしい?この違和感の原因は何だ?
必死で意識を繋ぎとめている彼女に、気を失ってしまえば楽なものをと毒づいた時、ヨザックはその違和感の正体に気づき愕然とした

(なんでこんな慣れてるんだ?)

痛みの第一波が来た時、彼女は迷わず持っていた布を口に含んだ。あれは舌を噛み切らないようにする為の自衛手段だ。そしてヨザックも味わった喉の焼けつくような痛みへの対処も正しい。
おそらく自分が味わった苦しみの比でもない激痛を耐えている彼女から目をそらし、ヨザックは唇を噛んだ。ラシャの目はすでに焦点が合わなくなり始めていた。
いくら慣れているように見えても、あの激痛は耐えがたいものなのは容易に分かる。
ぐぅ、とくぐもった声をあげ、ラシャが体くの字に曲げた。それを見たグウェンダルが自分もそれに合わせ床に片膝をつく。
真っ青なラシャの顔には、異常なほどの脂汗が浮かんでいた。


「閣下、代わりますから」


息をした拍子に布を落としてしまったラシャの口の中に迷わず自分の指を入れた自分の上官に、はっと我に返ったヨザックが声をかけたが、グウェンダルは何も言わずにそのままそっとラシャの頭を撫でた。
ラシャの様子を見るに見かねたのか、グウェンダルが簡単な治癒魔法を使っているのが分かった。自分は魔力がないためよくは分からなかったが、彼は確か治癒系の魔法はあまり得意ではなかったはずだった。

(閣下はなんだかんだで優しいからなぁ)

きっとこれはヨザックが警戒している事など全て分かった上での行動だ。
不器用ながらにもラシャの頭を撫でながら大丈夫だと繰り返す上官に、ヨザックはやれやれとため息をつき、とりあえずこの後必要になりそうなものを用意するためにそっと部屋を出た。



***
お庭番視点




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