09

「…まぁいいわ、その薬をかして」

「飲んで下さるんですか?」


私が手を差し出せばヨザックは驚いたように言った。彼は私には魔力があるはずだから激痛はないと言った。しかし私にはそうは思えなかった。まず私にはバサラ能力がない。ほんのわずかですら存在しないのだ。その事で今までどれほどの煮え湯を飲まされたか、忘れる事などできるはずかなかった



「ヨザックの心意気を買ったのよ。」


彼等はどれ程私と云う存在を知っているのだろうか。信じる信じないは別として私を王にすると言うくらいなのだ。そして彼らはここは違う世界だと言った。あの薬のせいで大分信憑性がでてきたそれについても、私にはまだまだ情報が足りなかった。

しかし私にはそもそも、彼等が言う王になる気などさらさらない。聞けば彼等にはすでに王がいる。見ず知らずの国の政治を任されるほど私は暇ではないし、そんなに懐が大きい訳でもない。ここには、私が守るべき長曾我部の民はいない。元親に言えば呆れられそうだが、私は自分の民さえ幸せであればそれで満足であるのだ。

それでもこの薬を飲む気になったのは、やはりヨザックの心意気にやられたと言うしかなかった。どうせ右も左もわからないのだ。それならばここで賭けに出るのも悪くないと思えた。
自分が死ねば長曾我部には軍師がいなくなり、大損害を被るであろうことはわかってはいたが、この目の前でへらへらと笑っている男を信用してみる方に賭けてみようと思ったのである。




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