08 (私が許す、ねぇ…) ヨザックの存在を、自らの頭で考え、認めた上での発言。私が貴方を認めたんだから、ぐるぐると頭の中を彼女の言葉が回る。果して彼女は、ヨザックの身の上を聞いてもなお、そう言えるのだろうか。 (おいおい俺はMじゃねぇぞ…?) ないないない。そう自分を言い聞かせ、ヨザックは極めて個人的な自分の思想を振り払った。 (よっぽどのお嬢さんと見える) 先ほどの発言。あれは人を上から見ている者独特の発言だ。本人もそれに気付いたのか、その後さりげなく話の話題を変えた。しかし自分の言ったことに気付けただけましであるとヨザックは思う。これで典型的な箱入りお嬢様だったりしたら目も当てられない。 思考の回転も会話をしている限り早い。これならば薬を飲むことの説得もまだやりやすいのかもしれなかった。警戒心はその分かなり強いらしいが、それはまぁ、最後は嫌われるのを覚悟で力づくという手もある。 「悪魔じゃなくて魔族です。貴方は双黒であり、実質我々の国の王に匹敵する権力を持つお方だ」 「はぁ?国王に匹敵する権力?何それ。…頭大丈夫?」 そう言った彼女の表情からは、心の底からそう思っている事がありありと感じられ、ヨザックは苦い思いを噛み締めた。 「そもそもここはどこよ?私には私をここに引きずり込んだ原因のバサラ能力者と会わせてもらえる権利くらいあるはずよね?」 きっちりしっかり納得のいくまで説明しろ。目の前の双黒の姫の目は語っていた。目は口ほどに物を言う。まさにその通りである。 「姫さんの言うバサラ能力者?が何なのかは知りませんが、ここは貴女がもといた世界ではありません。姫さんがここに来た理由はまだよく分かってはいませんが、陛下が地球にお帰りになったためだと思います」 「…陛下のかわり、ね。もしここが異世界だとしても、こんな身元も証明できない小娘にそんな大役を任すのはどうかと思うけど」 「…貴女は双黒です。それだけで理由になる」 「…へぇ。でもヨザックはそれに納得していないみたいに見えるけど」 図星をついた言葉にヨザックははっとして顔を上げた。見れば言った本人は何とも思っていないのか、あーごめん何にも知らないのに言いすぎたわ、と軽く言った。 「どうしてそうお思いに?」 「普通に考えたら国の政治を何も知らない人間に任すのは不安に決まっているでしょうが」 「…そうですか」 本当にそれだけなのだろうか。ユーリ陛下は平和を主張する正義感溢れたお方だった。しかし政治の事は全く分かってはいなかった。しかし彼女はどうなのだろうか。人を上から見れる立場にいたのならば、まだ若いとはいっても知識ぐらいはあるのかもしれない。 しかしユーリ陛下と同じ場所から来たのであれば、コンラッドが昔行ったという地球とユーリの話す話を聞いている限り、その可能性は低くなる。何より目の前にいる双黒の姫は、ヨザックから見ればまだまだひよっこともとれる若さだった。 (…とりあえずは様子見、かねぇ) 油断してはならないと、先の戦を思いだし、ヨザックは気を引き締めた。 *** 長男連載のはずが bkm index ×
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