▼どちらかを捨ててしまえば、きっと楽になれるのに オルガとナタルの衝突は、狭い鑑内にいれば嫌でも耳に入った。何も上官、それもよりにもよって艦長に喧嘩を売ることもなかろうに、と連帯責任として独房へ入れられた三人のことを思う。意識は未だ霞がかってはいても、たとえ戦闘中の記憶が断片的でしか残らなくなっていようとも、まだ、生きている。 生きたいのか、生かされているのか、何故生きたいのか、最近ではそれすらもまともに考えることも出来なくなっていた。死ぬまで戦う必要がある、だから今はまだ、この身体は生きている。せめて弟たちがその命を散らすまでは共にありたいと思っていたはずだったが、その考えすら、本当のものであったか、思考の混濁に飲まれていた。 二人の衝突で、否応なく自分を、周りを蝕むものを自覚する。かつて自分が、一度だけ弟の命を喰らって生き延びたことを。もうその命を散らした弟の薬を、この身に受けた。提案したのはアズラエルだったはずだ。しかしそれに頷いたのは紛れもなく名前自身だった。オルガ達はそれを知っている。だからこそのあの衝突だったのだろう。命の譲渡に、彼らは重きを置かない。 軍が、政府が、アズラエルが、どうしたいのかなんて知ったことではない。戦争が終われば、「青き清浄なる世界のために」自分たちの存在は消されるのだろう。どうせいつかまた同じ事を繰り返すのだとしても。 「珍しいな、貴官がこちらで食事をするとは」 「バジルール艦長」 「最近はあの三人とばかり食事をしていただろう」 「今日は薬を入れてもらったんでね。やっと固形物を食べる気がしたんですよ」 食事を終えた後も立ち上がる気力さえわかず、だらだらとそこに居座っていれば、噂の渦中の人物に声が耳に届く。 意識を切り替えにこりと笑って見せれば、ナタルはバツの悪そうな顔をした。彼女にとって名前は今最も会いたくはない人物であったろうに、わざわざ自分から声をかけてくるあたり、この上官も何とも生き難い性格をしている。部下のことなど、ましては生体CPUのことなど、意識などしなければ楽に生きれるだろうに。 「その、オルガ・サブナック少尉の件ではー」 「あぁ、愚弟が失礼を」 「そうではない、あれは私にも非があった」 「バジルール艦長。上のものがそう簡単に謝るなよ。特に、俺達みたいなのには」 あの子達の優しさに報いてくださいよ。抑揚をつけることもなく告げた声に、ナタルが唇を噛むのが見えた。 2016/12/26 index ×
|