▼わたしはどんな表情をしていたのだろう 生体CPUを哀れだと思うか? その問いに正しい答えを返せるものはきっと少ない。戦う為に生まれ、戦争の中で散ってゆくことのみを求められた存在に、人道的な問いは無意味である。間違っているといわれてしまえばそれまで、生きる意味すら失う彼らによってもたらされた勝利に、全ての矛盾は飲み込まれる。 「せめて遺品くらいおいといてくんねぇ?」 「不吉なこといってんじゃねぇぞおい」 首を傾げて可愛らしくねだってきたと思えばこれである。クロトの問いに眉根を寄せ、即答すればだよな、と頷かれる。 「俺らのコックピットにアンタの薬おいてんだろ」 「いざというときは型落ちの薬でもないよりマシだろ」 「自分は合わない薬使っといて俺らには甘過ぎねぇ?」 「お前等がアホすぎて薬切れしょっちゅう起こすからだろ」 「テメェの兄貴が命縮めてまで用意した薬なんて?俺らが?使うと?思ってんの?」 柄悪く詰め寄ってくる弟はどう贔屓目で見てもチンピラだった。言っていることは兄泣かせな事のはずが、表情と声音が全てを台無しにしている。 彼らのコックピットには名前の薬を少しずつ、隠すように置いていた。自分の城であるコックピットに人の手が加われば、どうせ隠そうが隠すまいが弟達はすぐに気付く。ただ、他の人間に知られなければそれでいい。すぐに薬切れを起こす弟達に、名前からのお守り代わりのメディカルケース。 「そんな余裕があるなら遺品になるようなもんの一個でも置いとけってんだよ」 「遺品じゃ生き残れねぇよ」 「そういうことじゃねぇし」 ふてくされたようにゲーム機を手にとったクロトはもう会話を続ける気はなくなったらしい。その頭をむんずと掴めば、心底嫌そうな声があがる。 「というか勝手に殺すな。俺はお前等より強いぞ」 「おーおー上等だコラ。しょっちゅう部屋に引きこもってるオニイサマは弟達の成長をしらねーんですねー」 「お前それ敬語使えてねぇぞ」 クロトのゲーム音を背景に、生体CPUがロストした時の事を考えてみても、どうにも思考はまとまらなかった。何も持たない者がいなくなったところで、きっと何も残らない。 「遺品、ねぇ」 「おいマジになんなよ」 「お前が言ったんだろーが」 道具はいらなくなったら捨てるものだ。戦場がゴミ箱の様なものだろう。ゴミだらけのそこで、蛆のように生きる命には、誰も見向きもしない。 2017/02/09 index ×
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