▼恋慕、或いは憎悪




「デコ野郎め」
「出会い頭にひどい言われようですねぇ」
「お前のデコなど心底どうでもいいがな。そんなことよりあいつらに対する対応に俺は意義を申し立てるね」
「さてさてなんのことだか」

おやおやと笑うアズラエルに、名前は眉間の皺を深くする。傍に居たナタルが何事かと怪訝な顔をした。出会い頭に行われた会話に、ナタルの思考はどうにも追いつかない。

「大体、たいしたミスじゃないだろう。俺の可愛い可愛い弟達をお前の性的思考の餌食にしないでくれないかなこのペド野郎」
「人を性犯罪者みたいに言わないでくれます?」
「似たようなもんだろ」

あの子達そんな可愛い年でもないでしょうと本気で嫌そうな顔をするアズラエルに、ものの例えだろうと名前は鼻で笑った。
同時に横で会話を見ていたナタルの表情が徐々に険しくなっていく。きっと名前が言っているのは先日のミスが原因で今は薬の供給を絶たれているあの3人の事だろう。その文句を言いにきたのだろうか、見上げた「兄」である。

しかしそれとこれとは話が別だ。上官に対して小馬鹿にしたような態度をとる名前にナタルが口を開きかければ、名前はおおこわ、とおどけてみせた。
生真面目な上官に、名前はいつもの笑顔でにこりと笑ってみせる。真面目に生きたってなんにも良いことなんかありゃしないのだ。





口ではアズラエルに文句を言っている名前は、いつもいつも可愛い可愛いと言い続けている弟達が苦しんでいるのに、普段となんら変わりない。
正論を言っている。なのに、名前には感情に波は見当たらない。だからどうにもおかしく見える。

結局は彼もどこか狂っているのだ。ナタルはそう結論付け、黙って事の成り行きを見守ることにした。

「オシオキは必要でしょう?獣が学ぶにはそれが一番手っ取り早い」
「それにも限度ってもんがあるだろう、薬の進行具合もバラバラなのに」
「おや、獣ということは否定しないんですか」
「それはお前の価値観の問題だろう」

言い合う二人の仲は端から見れば良好だ。それだけに二人の関係はナタルには理解が出来なかった。だが戦争なんてものはどこもそんなものなのだろう。理解の出来ない事の方が多い。

「あーあ、可哀想な俺の弟達。」
「あなたも変わりましたねぇ」
「嫌みか?」
「あの3人よりよっぽどガラも悪けりゃ気性も荒かったくせに、今じゃとんだ腐抜けでしょう」







「は?」


今なんと言った?
思わず声が出たナタルに、アズラエルと名前は意外そうにそちらを向いた。

「バジル―ル少佐、人間若さ故のアヤマチってあると思うんですよ」
「あれ、ききたいですか?ききますか?ねぇ?」
「おいやめろデコ野郎その後退気味の前髪毟り上げるぞ」

楽しげなアズラエルと般若のような顔をしている名前に、ナタルが遠慮しておきます、とだけ答えれば二人は正反対の顔をする。つくづくこの二人は仲が良いのか悪いのか分からない。しかし本音はどうなのだろう。言い方は悪いが名前は生体CPUで、アズラエルはその管理者だ。

「でも自分が罰を代わるなんて事を言い出さないだけ安心しましたよ。貴方は結局、そのままだ。」
「…まァ、そうだな」

歩を進めた自分の後ろで交わされた会話を、ナタルはあえて聞こえないふりをした。




140204
これでもお兄ちゃんは激おこなんです



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