▼優しいふりをしてあげる、それをあなたが望むから ほんとは臆病なんだよ、怖くて怖くて仕方が無いんだ。でも兄貴は弟を守るもんだろう? 「オルガ、読み終わった本をそのへんに飛ばすんじゃない」 「飛ばしてねーよ置いてただけだ」 「そう言ってお前読み終わった本もう一回読んだことねーだろしってんだからな」 「じゃあやるよそれ」 「いらねえよボケ」 「クロト、ゲームばっかしてねーで飯食え飯」 「今いいとこだから後でー」 「おいコラ電源ブチ切んぞ」 「何それまじ抹殺」 「おうおう抹殺でも抹茶でもなんでもいいからせめてゲーム画面から視線を離せ」 「シャニ、人と離すとき位はヘッドホンをとれ」 「だってクスリのせいでうるさいんだよ」 「嘘つけお前ほんとにしんどいときは俺の声聞こえないくらい音上げるだろ今会話してんじゃねーか元気ハツラツだろ」 「チッ」 「舌打ちすんなコラ」 自由な弟達。でも可哀想な弟たち。せめて俺の傍に居るときくらいは、家族ごっこをしたっていいだろう。名前は常々そう思っていた。 放って置いたら一日会話すらしない弟たちを知っていたからだ。もちろん、必要とあらば会話くらいするのだろが、そうでなければこのとおり。 家族なんて生まれてこの方あった事もないし、どれが正解の形なんてものかは名前には分からなかった。だからこうやって弟たちに構う。 なんやかんやいいながらも慕ってくれている(と、勝手に思うことにした)弟たちに、名前は今日も笑いかける。恐怖も臆病も全部飲み込んで、兄として笑うのだ。 弟たちは弟たちで名前が何を考えているか位知っていた。だから好きにさせているのだ。気が向けばたまには相手をしてやってもいい。少しだけくすぐったいのは名前が家族ごっこと呼ぶそれのせいだ。 彼らは3人とも家族を知らなかったし、もちろんそれは名前だって同じだった。 手探りで探しているくせに、自分たちには迷いなんかないように笑いかける名前のせいだ。 名前が一番臆病なことも知っていた。臆病なくせに誰よりも強いことも(戦闘でだって、精神面でだってそうだ)、弟たちはちゃあんと知っていた。 自分たちより一つ前の薬の成功体だった名前が、当たり前のようにこの中で一番劣化が進んでいることも知っていた。 それでも、誰よりも強いこの兄を、彼らは彼らなりに慕っていたのである。 140202 index ×
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