05. ―――フラッシュバック





「助けて……っ」

 そう言って目の前の少女は蜜柑に縋る。
 対する蜜柑は、訳がわからないまま、両腕をプルプルと震わせていた。
 しかし、軽く首を横に振って冷静に戻る。

「……どういうこと?」
「屋敷の下で、売られた子供たちが檻に閉じ込められてて……っ!連れてかれた子はみんなおかしくなって帰ってきた……!」
「売られた子……?」

 ふうん、と蜜柑は黙る。
 しかし、先程までのあやふやな雰囲気ではもうない。これは――"従者"としての蜜柑の顔。
 穏やかだった瞳は鋭く、氷のように冷たくなり。

「で、君はどうやってここに?」

 ここが会場の端の方で助かった。
 誰も蜜柑の方を見ていない。

「わたしは……"主"が居るから……」
「へえ。それで逃げ出してきたんだ?」
「でもッ!あそこは結界ががんじがらめで……隙を突かないと能力なんて使えないの!」
「ああ、やっぱりそういうことね」

 了解了解、と蜜柑はつぶやいた。
 少女は目を丸くしながら蜜柑を見つめたままだ。しかし、その瞳には蜜柑しか頼れる人物はいないと暗黙に、しかし絶対的にそれを物語る光が宿っている。
 くしゃ、と蜜柑は少女の頭を撫でた。

「どうしてウチなん?」
「へ……?」
「"従者"は人間の姿をしているから、普通なら見分けはつかない。それがたとえ同じ"従者"であろうとも、わかるはずがないんや。なのに君は分かった――どうして、かな」

 それは質問なんていった甘い言葉ではない。ただひとつの真実を追求する鋭い刃の様な言葉――。

「……檻の中で、噂になっていたの。従者の世界のトップに君臨するのは、佐倉蜜柑ただ一人だって……」
「―――……」
「檻の中には従者しかいなかったわ。そして殆どが婚姻出来るくらいの年頃の女の子達で……っ」
「女の子……?」


『―――蜜柑……』


 ドクン、と心臓が跳ねた。


『君は一生、私の傍に―――……』




 ―――吐き気がする。
 あの下衆にも、それに囚われた自分にもイライラして、吐き気がして、仕方がない。

「蜜柑さん……?」
「……場所は分かる?」
「あ、うん……分かるよ。……どうしたの?顔色が……」
「気にしないで。あ、そうだ。あそこのテーブルの人たちにこれを持って行ってくれる?それで、この紙を男の人の方に見せてくれるかな」
「……そしたら?」
「すぐに一緒に来て。その子達を助ける手伝い――してあげるから」




 スタートのゴングは、時計の鐘の音だった。





* (20131214:公開)






―――いいじゃないか、乗ってやる。覚悟はもうとっくにできているんだから……



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