21 遺したモノ
「仁王先輩」
俺たちは例のモノを持って、すぐに病院へ来た。
相変わらず仁王先輩は死んだように眠っている。
「仁王、雪から仁王に託かったモノを持って来たよ」
別荘の引き出しの中に入っていたモノ……
それは、ガラスのオルゴールだった。
幸村部長がオルゴールのネジを巻き、眠っている仁王先輩の枕元に置いた。
ポロン……ポロン……
優しい響きが病室に広がる。
何の曲かはわからない。
でも……俺は音楽に詳しくはないけど、雪先輩らしい……優しくて、哀しい旋律だった。
「……仁王?」
幸村部長が仁王の顔を見て驚きの声をあげた。
――仁王先輩の目から、涙が零れたからだ。
オルゴールは何回も同じメロディーを繰り返す。
「……仁王先輩、起きて下さい。また一緒にテニスしましょうよ」
「仁王、起きろ」
「仁王くん、またダブルスしましょう」
「仁王、お前まだやることがたーくさん、あるんだろぃ?」
「仁王、お前抜きでは全国にいけないぞ」
「仁王、また俺たちとテニスしてくれ」
「仁王、そろそろ起きる時間だよ」
「「「「仁王(先輩)」」」」
全員の想いが一つになる。
その時、仁王先輩の瞼が微かに震えた気がした。
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