18 足掻け
"仁王が一命をとりとめた"
その連絡が入ったのは、その日の夜だった。
"しかし――もう二度と目を覚まさないかもしれない"
そう聞いたのも、その時だった。
次に仁王先輩を見たのは、病院でいくつもの管に繋がれて 死んでいるように眠っている仁王先輩だった。
医者は、俺たちにこう言った。
"彼からは、生きる気力が感じられないんだ"
"もしかしたら、もう目を覚まさいかもしれない"
"耳は聞こえているから、雅治くんが目を覚ますように、皆で声をかけてやってくれ"
俺は包帯を巻かれた仁王先輩の右手に自分の手を重ねた。
仁王先輩は、家の風呂場で自殺を図った。
風呂場で俺たちにメールをした後、
左手で、右手首をざっくり……
カッターで、切って……
その右腕を、冷たくなった湯舟に浸けた。
仁王先輩のお姉さんがもう少し来るのが遅れていたら、助からなかったかもしれない。
「……雪先輩の所にいきたかったんスか? 仁王先輩……」
「仁王……早く帰ってこいよ」
「全国に行く前に戻ってこなかったら……どうなるかわかってるよね?」
ピクリとも動かない仁王先輩に、俺たちは必死に声をかけ続けた。
「そんなことしても、雪先輩は喜ばないっスよ……」
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