俺は生きた | ナノ


  25 初めて出会った日


一晩中泣いた。

でも、やっぱり最後は笑顔でいたくて。

貴方の中に残る私の最後の顔が、笑顔であって欲しくて。

必死に笑顔の練習をしてきた。


震える手で、病室のドアをノックした。


「柳くんならさっき外出していきましたよ」
『……え?』


通りかかった看護婦さんが言った。
思わず勢いよくドアを開けると、看護婦さんが言った通り、そこはもぬけの殻で……代わりに、一枚のメモがベッドの上に置いてあった。



"公園"



綺麗とは言えない字で、ただ二文字 そう書いてあった。

蓮一が書いたんだ……

私はメモをポケットに入れ、病室を飛び出した。





『はぁ、はぁ……っ、』
「遅ぇぞ」


いつものベンチに、いつものニット帽を被って、いつものように座っていた蓮一。
ホッと息をついた。


『これでも急いで病院から走ってきたんだよ?』
「見ればわかる。座れよ」


ぽん、と蓮一は隣の空いているスペースを叩いた。
私はゆっくりと腰掛ける。


『身体は大丈夫なの?』
「多分な」
『多分、って……』
「今日くらい、いいだろ」


その言葉に、私は ハッとして口を結んだ。

"今日くらい"

それはきっと"今日だけなら無理しても大丈夫だろう" ということだろう。

今日だけなら……
つまり、無理するのは今日だけ……
蓮一がいるのは、今日だけ……


『……もう、決めたんだよね』


何が、とは言わなかった。
でも蓮一は ああ、と肯定した。


「本当は昨日、あのまま行こうとしたのに……蓮二に引き止められ怒られてしまってな」
『柳くんに……?』
「お前の言葉を聞け、と……怒られた」


それは、私が一番しなければならないことだった。
もう、後悔なんてしたくない。


柳くん、ありがとう


『……蓮一』
「……何だ」
『私、蓮一が好き』


精一杯の強がりで、蓮一を見ないで私は言った。


『なんでだろうね、いつの間にかそう想うようになっちゃって……不思議な魅力ってやつかな。言葉では説明できないけど……』
「……」


蓮一は何も言わなかった。


『本当、不思議だよね。たまたまあんな暗い所で出会って、こうして一緒にいて……まだ数えるくらいしか経ってないのに』
「……俺は、ずっと前からお前を見ていた」
『……え?』


思わず蓮一の方を向くと、蓮一は私を見ていて、バチッと目が合ってしまった。
綺麗な瞳に、 吸い込まれてしまうような感覚がして、そのまま動けない。


「……立海の入学式の日、お前は俺に会ったことがある」
『え!?蓮一に?』
「ああ」


いや、入学式の日に柳くんに会った記憶なんて……
私の様子を見て蓮一は溜め息をついた。


「……蓮二はあの日新入生代表挨拶を任されていて、とても不安定な状態だった。そんな時に、人とぶつかっちまったんだ」





(やべえな……かなり不安定な状態になってる……これじゃあ少しの衝撃で簡単に落ちるぞ)


朝からフラフラとしていた蓮二は、昨晩からずっと心が安定しない状態だった。

そんな時、



ドンッ



『わっ』
「っ!!」


フラフラとしていたせいか、自分から知らない女子にぶつかってしまった。

その衝撃で俺は表に出ることになり、女子は尻餅をついてしまった。


クソッ……新入生代表挨拶なんて俺はやんねぇぞ……


『いたたた……』
「っ、わりぃ、大丈夫か?」


俺は慌てて女子に手を差し出した。
女子は ありがとう、と言って手を取った。


「怪我してないか?」
『うん、大丈夫。ありが……わ、綺麗な目ですね……!裸眼ですか?』
「え?お、おう……?」
『すごく綺麗です!!……あ、もしかして、新入生?』
「あ、ああ。そうだが」
『同い年か!私も今年から立海生なんだ!同じクラスになったらよろしくね!』
「お、おう」


彼女握手を求めていたので、握手をした。
すると遠くから誰かが彼女を呼んだらしい。
彼女は ハッと声のした方を見ると、慌てて踵を返した。


『ごめんもう行かなきゃ!じゃあね!』
「、あ、おい……っ!!」


彼女が離れると同時に、ズルリ、と沈む感覚がして……
気がつくと、俺は"内"に沈んでいた。

代表挨拶をするハメにならなかったことにまずホッとすると、次に思い浮かんだのは、あの女だった。


(……名前くらい、言っていけよ)





『ああっ!!』
「思い出したか?」


ぶんぶんと首を縦に振る。

思い出した。
入学式の日、柳くんに会ったこと。
新入生代表挨拶で "あ、やなぎれんじくんっていうんだー" って思ったこと。

どうして今まで忘れてたんだろう……
私は2年前に柳くんに……蓮一に、会っていたんだ。


「……思えばあの時から、俺はお前に恋してたのかもな」
『!』


そんな恥ずかしい台詞をさらりと……!
顔が赤くなるのが自分でもわかった。


『わ、私も、思えばあの時から、蓮一の瞳に惹かれてたの、かも』


不良に絡まれる私を助けてくれた時の、蓮一のあの 月の光に照らされて光る瞳と、初めて会った時の綺麗な瞳。
きっと、ずっと忘れない。




「……本当、奇跡だよ」

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