20 ごめんなさい
「すまない、神崎」
『!』
いきなり聞こえてきた声に私はびっくりして立ち上がった。
『い、いつから起きてたの!?』
「つい、さっきだ。……話は全部聞いていた」
ス……と二つの綺麗な目が私の瞳に映る。
喋り方からそうではないかとは思っていたけど、今確信した。
『……柳くん、だね』
「……ああ」
私は元居た柳くんの隣に静かに座った。
寝ている時は緊張しなかったのに、今になって緊張する。
何から話そうか……
『あの、』
「神崎、」
柳くんと声が被り、キョトン、と柳くんと見つめ合う。
そしてくすっと笑い合った。
『そちらからどうぞ、柳くん』
「いや、神崎からでいい。聞きたいことがあるんじゃないのか?」
『私が聞く前に話してくれるでしょう?』
「……そうだな」
柳くんはニット帽を被った、"蓮一"の姿のまま 話し始めた。
「……本当は、もう一生沈んだままでいるつもりだった」
柳くんは胸の辺りに拳を当てる。
「でも彼奴が……蓮一が、それを許さなかった。本当は沈んでしまいたかったのに、蓮一に止められて完全に沈みきれなかった」
蓮一が柳くんを止めたんだ……
蓮一は どんな想いで柳くんを止めたのかな……?
「そしたら今度は、お前の声が聞こえてな」
『私の?』
「……"蓮一は逃げ道じゃない"……ちゃんと全部、聞こえていた」
『あ……』
どうしよう、聞いてたってわかったら急に恥ずかしくなってきた。
『ごめん……何も知らないのに勝手なことばかり言って』
「いや、……蓮一という存在がいるのを知られることも、俺にそんなことを言ってくれることも、お前が初めてだ。……ありがとう」
柳くんは私を真っ直ぐ見つめた。
顔に熱が集まるのがわかる。
『い、いやいや、私も他人のこと言えないのに、』
私はそこでハッとした。
何で最初にこのことを言わなかったの?
私ったら馬鹿じゃないの!
私は柳くんを真っ直ぐ見据える。
『私、柳くんの気持ちを考えずに勝手なことばっかり言ってたことに気付いたんだ。ごめんなさい、柳くん』
頭を下げる。
たくさん、たくさん柳くんを傷つけたと思う。
ううん、絶対傷つけた。
これは謝って許されることじゃないけど、せめてこの気持ちだけでも……
「……神崎が謝ることでは、ない。俺が、早く……言わないのが……」
……?
次の言葉を 待つが柳くんは何も言わない。
不思議に思ってそろそろと顔を上げると、
『!柳くん!?』
真っ青な顔の柳くんが、胸を抑えて蹲っていた。
『柳くん!!』
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