俺は生きた | ナノ


  19 "逃げ道"


蓮一

柳くん

どこにいるの?


初めて蓮一と出会った通り。

学校をサボって行った遊園地。


いない。
どこにもいない。


『柳くん……蓮一……』


結局、最後に心当たりのある場所は"あそこ"しか残っていなくて。

ふらふらと公園に行く。


『あ、――』





見つけた。





ニット帽を被った蓮一が、あのベンチに座っていた。


『蓮一』


前に立って名前を呼ぶ。
……しかし、反応がない。


『蓮一?……柳くん?』


ぴくりとも動かない身体に私は心配になって、肩を揺すってみた。

がくんと頭が右に倒れる。


『蓮一!?柳くん!?』


びっしょり汗をかいて、息苦しそうに眉間に皺を寄せていた。


"身体は普通の人の二乗のスピードで壊れていく"


どうしよう、もしかしてどこか悪いんじゃ……


『蓮一!柳くん!』


必死に呼び掛けるがびくともしない。

ずるり、と傾いた身体が重みでさらに傾く。
このままだとベンチの肘置きに頭が激突してしまう。

私は隣に座り、身体を支えた。


『……あれ?』


がくんと私の肩にもたれ掛かった彼の息が、心なしか穏やかになってる。


……全然起きないし、大丈夫かな……?


『蓮一、柳くん』


声をかけてみるが穏やかな寝息が聞こえるだけ。


『……心配、したんだよ。急に学校来なくなるから、皆も心配してる。テニス部の皆もね』


本当はすぐに見つかったことを連絡すべきなのかもしれない。
でも、少しだけ、少しだけでいいから……


『……私、柳くんに言いたいことがあるの』


私なりに考えた結果だ。


『柳くん。……蓮一は、貴方の逃げ道じゃない』


相変わらず寝息が聞こえてくる。
私の声は届いているのかな……?

届いてないなら何回も言うまでだけど。


『嫌なことがあったり疲れたりしたらすぐ沈んで、蓮一に丸投げ。そうでしょう?柳くん』


勉強の疲れ。

部活の疲れ。

……人生の疲れ。


面倒事は全部見ないフリ。


『貴方が蓮一を自分の身体から追い出さなかったのは、ただ"優しい"から、とかじゃない。……"逃げ道"が欲しかったんだよね?』


私も時々思う。


"誰か代わりになってくれないかな"


って。


『貴方は自分を正当化して自己満足してるだけ。……違う?』


別に蓮一が好きだから蓮一の味方をしてるんじゃない。
柳くんに、ちゃんと考えて欲しかった。
蓮一のことも、


……私のことも。


『柳くん、もう逃げないで。辛くても、生きなきゃいけないんだよ……この世に生を受けなかった、蓮一の分まで』


ぴくり、と身体が動いたことに私は気付かなかった。


『……柳くん。貴方は自分のことしか考えてない。蓮一のことも考えてあげて。……って、私が言える立場じゃないけど』


一通り話して、ふぅ、と息を吐いた。


「……すまない、神崎」

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