俺は生きた | ナノ


  15 彼の望み


キィ、と音をたてて、時間が止まったような私たちを置いて、観覧車は止まることなく動き続ける。


『もう止めよう? 柳くん』


綺麗な瞳が、見開かれる。


「……いつから、気付いていた?」
『……最初から、なんとなくそんな気はしてた。けど、確信したのはコーヒー渡した時』


瞳を見て、仕種を見て、"柳くん"と"蓮一"を区別できるようになるなんてね。


『柳くん、コーヒー嫌いでしょ』
「……よくわかったな」
『だって飲んだ後、苦い顔しかしてなかったもん』


ふふ、と笑う。
柳くんは気まずくなったらしく、ネクタイを締め直して "いつもの柳くん"の格好に戻った。


『ねえ、柳くん』
「……何だ?」
『柳くんは知っていたの? 蓮一のこと』
「……ああ。知っていた。随分昔から」


その時、ちょうど観覧車が一番低くなった。
変な空気のまま、2人で観覧車を降りて、遊園地の出口へと歩く。


『……蓮一は、柳くんは蓮一の存在を知らないって言ってたよ』
「ああ……。ずっと、知らないフリをしていた」
『どうして?』


柳くんは少し考えてから言った。


「彼奴が……蓮一、と言ったか。……蓮一が、そうすることを望んだからだ」
『……蓮一が、柳くんに見つからないことを望んだから、柳くんは知らないフリをしたってこと?』
「そうだ」


蓮一は"蓮二に見つかったら、この身体から追い出される"って言っていた。
でも、現実はそうじゃなかった。


「俺の中で必死に隠れる蓮一を、俺は見て見ぬフリをしてきたんだ」

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