暁の空へ | ナノ


  90 本当に……?


高級そうな生徒会長の椅子にドスンと腰掛ける。


「案外上手くいくもんだね」
「だな」


宍戸はこれまた高級そうな来賓席に座る。


「……なあ、有梨」
「ん?」
「本当に、大丈夫か?」
「え?」
「怪我は、治ったのか?」
「怪我?」


怪我って……


「まだその話続けるの? あ、監視カメラでもあるとか?」
「ばっ、ちげーよ! あの時のことだよ!」
「え?」


立ち上がって叫ぶ宍戸。
あの時のこと?


「"スフィア"の前で、お前は……」
「"スフィア"?」


宍戸、何か様子がおかしい……
どうしたの……?

"スフィア"って、何……?


「……覚えて、ないのか……?」
「何を……?」


宍戸は絶望的な表情をしていた。
どうしてそんな表情をするの……?


「教えて。私、何を忘れたの?」
「いや、覚えていないならいい」
「でも、思い出さないと、」
思い出さなくていい!


大声を出したことに気づき、はっとして ソファーにボスンと座り、悪い、と言う宍戸。


私が……何か忘れているから……宍戸が……


「……ごめん」
「……有梨は悪くねえよ。……悪いのは、全部……あいつのせいだ」
「あいつ?」
「何でもねえよ」


あいつって、誰だろう?

でも宍戸が敢えて言わなかったことだから、私は聞かない方がよかったのだろう。


「あ、ところでさ。私って貴方の"彼女"なの?」
「……え」
「ごめん。正直に言うとあんまり貴方のこと思い出せてないの。前の世界での貴方のこと教えてくれない?」
「……わかった」


宍戸はふぅ、と一息ついてから、静かに話し出した。


「前の世界での俺の本名は"井ノ原怜緒(いのはら れお)"」


井ノ原怜緒……
あ……



"れ……お………?"



さっき何言ったのか思い出した……
だから私はあの時――宍戸が抱き着いてきた時――"れお"って言ったんだ。


「俺は"真昼の夜"という名前で、あの動画で活動していた」


"真昼の夜"……


「そして俺は生放送で"夕月"と出会った。話しているうちにお互い近い地域に住んでいることがわかり、会うことにした。……"スフィア"で」


また出た"スフィア"


「スフィアって何?」
「……喫茶店の名前だ。――そこで俺達は初めて対面して、お互い息が合って付き合うことになったんだ」


何かいろいろすっ飛ばされた気がするんだけど……
まあいいか。


「……で?」

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