89 良い話
「「「「え?」」」」
宍戸が突然辛そうな顔をしながら語り出した。
記憶喪失??
宍戸はちらっと私を見て目配せする。
話合わせろっていうことか。
「記憶喪失ってどういうことですか?」
「……有梨は、2年前に事故にあって、両親を亡くし、記憶喪失になった」
めっちゃ同情ひく設定だな!やだ有梨可哀相!
……きもっ
「それから有梨は親戚の家に預けられて、俺のことを思い出さずに、神奈川に転校した……」
「宍戸さん……」
宍戸ってば演技うまいな。
役者なれるよ
「記憶は取り戻したんですか?」
「え、ああ……ぼんやりと」
「お前ら……っ 大変だったんだな……っ!」
向日くんが涙目だ。
でもゴメン。
全部宍戸の作り話。
「この前の練習試合でやっと見つけたんだ……有梨を……。だから、2人だけで、話がしたいんだ」
「っ、そういうことは先に言いやがれ……っ!」
跡部が目頭を抑えながら鍵を差し出す。
「生徒会室の鍵だ……っ、好きに使え……っ」
「跡部……ありがとな」
宍戸は鍵と私の腕を掴み、部室を出た。
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