58 ミーハー
走って、走って、汗だくになって。
打ち返せなくて。
それでも立ち上がって……
「……すごく、生き生きしてた。あんな顔は、元の世界では見ることはできない」
絵に表現できない、あの表情を見ていたい。
見ていきたい。
「そんな彼らの成長を、見届けたい」
たとえ結果がわかっているとしても……
「……結局私は、さっきの練習試合に応援しに来ていた女の子達と同じミーハーなんだ。……彼らを見ていきたいから、ここに残りたい」
ぽん、と 謙也くんの手が頭に乗っかった。
「夕月はミーハーなんかやない」
「……ミーハーだよ」
「夕月は、"テニスをしている"あいつらを見たいんだろ?」
「……謙也くん?」
突然関西弁が標準語になった。
「だったら、しっかり目ぇ開いて、ちゃんと見てやれよ。あいつらの姿を……。そんで、その時に感じたこと、ちゃんとあいつらに伝えてやれよ。な、夕月」
"な、夕月!"
「こ、かげ……」
元の世界の記憶が、一瞬 甦る。
"今度、アレやろうぜ"
"アレだよ、アレ。えーっと……そうだ、―――だ!!"
「木陰……」
「ん?」
「私たち、何か……忘れてない……?」
「え……?」
「
有梨先輩から離れろおおおおおおおお!!!」
ドスッ
ゴキャアッ
ベキッ
(※効果音だけでお楽しみ下さい)
「
ぐはあ……っ」
バタッ
(※効果音だけでお楽しみ下さい)
「黙祷」
倒れた謙也くんに光は手を合わせた。
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