57 もしも
「……え?」
もしかして……
戻る方法知ってるの……?
「戻れる、の?」
「もしもの話や」
紛らわしいんだよ!でも、元の世界に戻る、か……
考えたことなかったな。
「もし、戻る方法があるとしたら……」
テニプリの世界に来てからの事を思い返す。
何の特典もなくトリップして、
立海に転入して、
ニマニマ動画で活動を始めて、
仁王と出会って……
「……戻らない」
「戻らない?」
「もし戻る方法があったとしても、私はこっちの世界に残りたい」
謙也くんが 何で、と理由を聞く。
「なんだかんだ言って、こっちでの生活、楽しんでるんだよね。それに……」
「それに?」
目を閉じて、あの風景を思い出す。
「漫画でも、アニメでも……あんな顔、見たことなかったの」
緑のコートで、小さな黄色いボールを追いかける。
「テニスをしている、彼らの表情」
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