56 そんな子供嫌だ
「……なあ、暁」
「何?」
「ホンマに、"夕月"なん?」
「……そうだよ」
2人で話したいこと、と言ったらこの話が出ることは分かってた。
まあ、だから2人だけで散歩してるんだけどね。
「朝起きたら、この世界にいたの。どうやってこっちに来たのかは全然わかんない」
「その姿のまま来たんか?」
「そう。何の特典も無しに」
「俺からしたら羨ましいわ。だって成り代わりやで?」
成り代わり……
「もしかして、"忍足謙也"が生まれる所から?」
「せや」
「前の世界の記憶はそのままで?」
「せや」
……。
「大変だったんだね……
ブッいろいろと……
ブッフゥ」
「
笑うなら笑えや」
見た目は赤ちゃんでも中身は中学生ってことでしょ?
いろいろ大変だよね。
オムツとか。
ミルクとか。
……とんだ醜態だわ。
「ホンマに大変やったんやで? "天才児が生まれたー!"ってな」
「何をしでかしたんだ」
「何もしてへんわ。幼稚園の頃園児集めてボイコットしたり、小学生の頃何本か科学関係の論文書いたりしただけやし」
「
嫌だそんな子供」
ボイコットについては犯人が俺だっていまだに気づかれてへんで!と ドヤ顔で言う謙也くん。
そこは子供のフリしようぜ。
「でもホンマびっくりやわ。最初に財前から暁の歌聞かされた時は"似てるな"って思っとったんやけど、確信したのはあの生放送やな」
「あーやっぱり?」
そりゃあ 前の世界でやってたやつやったら気付くわな。
「なぁ、夕月」
「ん?」
「前の世界に、戻りたくあらへん?」
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