暁の空へ | ナノ


  16 考えすぎなのか


「ねえちょっとどういうこと?」
「え、何が?」
「渚くんのこと!」


水を貰いに行こう、と強引に不二を連れてきて、すぐさま不二に詰め寄る。


「渚がどうかした?」
「おかしいでしょ! こっちの世界では"夕月"は作曲しかしてないから、"夕月"の声にそっくりで、とか、おかしいでしょ!」
「……はあ。まあ、確かに」
待ってなんでこんなに私だけ慌ててるの


きょとんとした顔をする不二。いつもならすぐ険しい顔になるのに。


「渚もたまにニマ動は見るみたいだし、言い間違えたとかじゃないの?」
「ええー?」


疑り深い不二が何故こんな時に限ってそんな楽観的なわけ?
何でなの? と言うふうに不二を見ると、不二は「だって……」と訳を話し始めた。


「僕は結構小さい頃から渚と友達だけど、そんな不思議に思ったことはないよ?」
「……はあ」
「それに、仮に渚が"前の世界"の人だとして、一体誰だっていうの? あの時……あの事故の時、あそこにいたのは僕らだけだ」


不二の言いたいことはよくわかる。
そもそも、この成り代わりやトリップが起きたのはあの事故の時であり、この状況を起こさせた燐も、私たち以外の人のことは何も言っていなかった。
それ以上でも以下でもなく、さらに"もう一人"と言われても、それが誰なのかも、何故この世界に来たのかも、理解できないから。


「有梨はちょっと敏感になりすぎなんじゃないかな」
「……そうかな」
「もっと気をラクにしてさ、普通に仲良くなればいいと思うよ。渚、いいヤツだし」



そう言って不二は席に戻ってしまった。

……考えすぎ、なのかな。


私は何か煮え切らない、もやもやとしたものが心を渦巻いていたが、不二の言う通りかもしれない、と、不二の後を追った。



*



「え、帰る?」
「ほら、渚濡れちゃったから。風邪ひくといけないし」
「それは大変」
「ごめんな」


水を入れたコップを持って席に戻ると、渚くんと海堂くんが帰る準備をしていた。
注文していたものは全て食べ終わっているので、私と不二も一緒にカフェを出ることに。


「あれ?伝票は?」
「ああ、俺が払っといたから大丈夫」
「エッ!?」


渚くんがなんでもないことのように言う。
いやでも、ここ、結構高いよ? 私が頼んだパンケーキ、1000円以上はしてたし……


「いいのいいの。昨日のお礼」
「それにしても高かったし申し訳ないよ」
「貸しは作っても借りは作るな、が海堂家のしきたりだから。気にすんな」


海堂家お金持ち疑惑……。
だって思えば渚くんってブルジョワ学園・氷帝に通ってるんだよね。ってことはお金持ちよね。それに青学も私立だし……

訝し気に氷帝の制服を着ている渚くんを見ながらカフェを出る。


「僕らは電車だけど、有梨は?」
「あ、うん、私も電車だけど、あっちの路線だから」


じゃあここで、と4人で改札近くで立ち止まる。


「有梨は明日も来てくれるの?」
「うん、暇だしね」


でも青学と氷帝の試合、9時からだったよね? 朝9時に会場に着くのは冷静に考えて無理だなあ。6時に家出ないとだし。
まあ跡部のバリカンに間に合えばいいか。


「ま、草葉の陰から見守っているよ」
「わかった探すね」
探さんでよろしい

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