暁の空へ | ナノ


  5 "海堂渚"


「ちーす。薫迎えに来ましたー」
「あ! 渚来た!」
「やっほー」


不二の陰からそっと顔を出してその顔を確認する。
丸い頭、サラサラの黒髪、鋭い目付き、黒縁眼鏡。
眼鏡を取ったら海堂と見分けがつかないんじゃないかというほど似ていた。
そして高い身長で、着ているのはあのチェックのズボンと胸元のエンブレムはまごうことなき氷帝の制服……


「ごめんなーうちの愚弟が……」
「いや、酒を飲ませてしまったのはこちらのミスだ。申し訳ない」
「いやいや! 匂いで酒だって気付かなかったこいつも悪いし、気にすんなって!」


ヘラヘラと笑う所を見ると、弟とは性格が正反対なのかな……
海堂が笑うとあんな感じなんだ……

手塚と一言二言交わすと、海堂のお兄さんはよっこいせと海堂をおぶった。海堂より身長高いから……180とかあるのかな……
そして海堂の荷物も持つ。


「え、渚さんそれで帰るんすか?」
「? おう。邪魔したな!」
「いやいやいやいくらなんでも無茶ですって!
「だぁいじょうぶだって〜鍛えてるし! ほら力こぶ〜」
長袖着てるんで全く見えません!


桃が止めるがそれでも行こうとする海堂のお兄さん。
確かに見た目からしてガリ勉でひょろひょろしてそうだし……


「お前らは明日も試合あるんだろ? いいからここはお兄さんに任せておきなさい」
「同い年だけどにゃ?」
「細かいことは気にしない!じゃ!」


そう言って颯爽と去って行った海堂。


「……大丈夫ですかね」
「……渚のことだ。きっと大丈夫だろう」


何を根拠にしているのかわからないが、手塚は海堂のお兄さん……渚さんをかなり信頼しているようだ。
そんな手塚を見て桃はおとなしく食事を再開した。
本当に大丈夫かな……

そう思いながら、私も目の前の食事を食べ始めた。
……あれ? そういえば今何時だろう……


「……あ、ごめん不二。私もう帰らなきゃ」
「え? そうなの? 残念」
「ちょっと用事があって……1000円で足りる?」
「ああ、いいよ。今日は僕が奢るよ。急に連れて来ちゃったし」
「本当? 貸し1とかじゃないからね?」
「ははは、わかってるよ」


出しかけた財布を戻して、私は皆に軽く挨拶をして店を出て行こうとした。
……でも、私は見つけてしまったのだ。


「……そこのタオル、もしかして」
「え? ……アッ! これ海堂のだ!」


桃があの時ぐちゃぐちゃにするから……と大石がため息をついた。桃本人はタオルくらい明日渡すでいいじゃないっすかーと反省の色はゼロ。


「私、持っていこうか?」
「え、君が?」
「今から帰るし、ついでに持って行くよ」


まだそんなに離れてないだろうし。


「助かるよ〜海堂たちは多分店を出て右をまっすぐ行ったと思うから」
「駅の方向ね、了解。会えなかったら明日持っていくから」
「タオルくらい大丈夫ですって〜」
「こら桃! 元はと言えばお前が原因だろ!」
「……すんません」
「ごめん、じゃあよろしく頼むよ。えっと、五十嵐さん」
「よろしくされました。……じゃあ今日はありがとうございました〜明日も応援してるよ!」
「! あざっす!」
「うわ越前がキラキラしてる」





暑い店を出て右を向くと、大きな人影がのそのそ歩いていた。
思ったより早く見つかったな……良かった。
小走りで近付いて行き、驚かせないように隣に並んでから声をかけた。


「あの、すみません」
「……え、」
「これ、忘れ物です。……後ろの彼の」
「え、あ、ああ、どうも……」
「それじゃあ」


そして、本来の帰路である反対方向へ走り出した。

次のバスすぐ来るといいな〜






















[渚side]


学校から帰る途中だった。
手塚から電話が来て、なんと弟である薫が酔っ払って動けないらしい。

仕方なく俺は迎えに行って、筋トレにもなるしいいかなと思って薫をおぶって帰ることにした。
この店から家まで徒歩30分程度。
……よし、行ける。


そう思って、歩き出した数分後だった。


「あの、すみません」
「……え、」


見知らぬ女子が声をかけてきた。

……見知らぬ? いや、今考え直すと、正確にはこの顔はよく知っていた。知っていたんだ。


「これ、忘れ物です。……後ろの彼の」
「え、あ、ああ、どうも……」
「それじゃあ」


薫のタオルを俺に押し付け、店の方に走っていく彼女。

……え?
待て待て待て

思考が追いつかない。
あまりに突然の、一瞬の出来事で、俺の頭は完全にショートしていた。


「……有梨?」


どうして……この世界に……?

prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -