134 勘違いが生む連鎖
「……え、」
皆の間に、再び静寂が流れた。
「……もしかして、それがあの事故……?」
「そう。私は自分から飛び出して行ったんだよ、燐を助けるために」
仁王、謙也、そして不二は難しい顔をしていた。
でも、これが真実なんだ。
「私は井ノ原怜緒に押されてなんかいないの」
「……いや……でも、あの時井ノ原は、手を……」
「……有梨に話しかけようと、有梨の肩を叩こうとしてたんだよ」
さっき思い出したんだけど、と宍戸は言う。
「皆勘違いしてただけなの。井ノ原怜緒は私を殺してなんかいない。私は殺されてなんかいない」
そう断言するが、3人はまだ腑に落ちない様子。
どうして?
これが真実なのに、何故信じてくれないの……?
「……納得がいかないのも無理はないよ」
燐が口を開いた。
「だって俺、兄ちゃんが姉ちゃんを殺した犯人ってことにするために、記憶を消したり、書き換えたりしてくれ、って望んだんだ」
宍戸が怪訝な表情をする。
「俺は、兄ちゃんが嫌いだったんだ。……何でもできて、両親から愛されている、兄ちゃんが」
燐はぎゅっと拳を握りしめた。
「俺に構うのも、同情からだと思ってたんだ」
「、違っ」
「
それは違う」
宍戸が私の言葉を遮った。
怜緒が同情から弟に構っていた?
そんなはずない、
「俺は、お前が好きだったんだ。同情からとかじゃなく、ただ純粋に兄弟として、……」
今更そんなこと言われても、という顔をする燐。
でも、宍戸の言葉に偽りがないのは、私もわかってる。
「燐。怜緒はね、いつも私と会う度に弟の話しかしなかったんだよ」
「え、」
「そりゃあもう、弟が可愛いのなんのってうるさくて。あれは世に言う"ブラコン"だったよ……」
「
残念なものを見る目で俺を見るなよ」
宍戸は豪華に頭を掻いて、照れ臭そうにしていた。
いやもう本当にすごかったんだって。
口を開けば弟が、弟は。
四六時中弟の話ばっか聞かされたよね。
その"弟"が燐だとは知らなかったけど。
「燐に構わなくなったのも、有梨に引かれて自分のブラコン具合に気付いて気をつけようと思っただけだし……有梨との買い物も、お前へのプレゼント選びだったよ」
「え……」
そこまで来ると気持ち悪い、と不二が呟いた。
そうだよ不二、気持ち悪いんだよ。
「じゃあ……俺、ずっと勘違いしてたってこと……?」
「……まあそうなるけど、紛らわしい行動した俺も悪いし、」
宍戸はポン、と燐の頭を優しく叩いた。
「ま、おあいこってことで、な? 燐」
「! 兄、ちゃん……」
ごめんなさい、ありがとうと涙を零しながら言う燐の頭を、宍戸は"兄"の顔で撫でていた。
ブラコンめ。
「泣くな泣くな。まだ話したいこといっぱいあるんだろ?」
「、うん、うん」
涙をぐっと堪えて、燐はまた皆に向き直った。
「死んだ俺に、姉ちゃんをまだ生きさせる方法を教え、皆を転生させたりした人は、……そこで眠っている、"もう一人の俺"なんだ」
*
「まだあの人を生きさせる方法がひとつある」
「"この世界"じゃない、"別の世界"にトリップさせればいいのさ」
「生き返らせるわけじゃないが、それであの人は"あっちの世界"で幸せに生きていられる」
*
「俺もあいつのことはよく知らないんだけど……でも、あいつが"俺"だってことはわかる」
「いや、でもあいつはお前とはかなり性格が違うぞ?」
「……うん、そうなんだけどね……」
未だ眠る"もう一人の燐"を燐は見つめた。
「あれは"俺"なんだ」
「違う」
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