暁の空へ | ナノ


  132 俺らのいる世界


「っは……っ、は、」
「五十嵐!!」


まるで長い時間水中に沈んでいた後かのように、息が荒くなる。
思うように身体が動かない。


私……どうなったの?


目の前には、仁王、宍戸、不二、謙也、そして燐がいた。


「ここ、は……」
「俺らのいる世界だ、五十嵐」


ああ……戻ってこれたのか、私……


ホッとするのもつかの間、私は手に違和感を覚えていた。
そういえば、暗闇で何か掴んだような……

そう思って私はゆっくりと右手を見た。


「ところでさ、こいつは?」
「!?」



そこには、眠っている燐がいた。



見間違いかと思って謙也の隣を見る。
燐がいる。

自分の右手を見る。
燐がいる。


どっちが幻!?
幻!? こっちか!!」
いや、違うから


謙也が隣に立っていた燐の肩に手を置く。

燐は謙也の手をどけ、眠っているもう一人の燐に手を伸ばしたが、触れる前に手を止めた。


「……ごめん、姉ちゃん。しばらく寝かせておいていいかな?」
「え? ああ、うん」
「あ、じゃあ隣の仮眠ベッドに」
「よっしゃ俺が運ぶで」


謙也は眠る燐を運んでいった。


「ところで五十嵐、身体は大丈夫か?」
「うん。喉渇いてるっくらいかな。あとお腹すいた」


早く言えよ、と宍戸が水を手渡してくれる。
その手に包帯が巻いてあるのを見て、私は思い出した。


「そうだよ、宍戸こそ大丈夫なの?」
「あ? お前に比べりゃどうってことねぇよ」
「テニスできなくなったりとかしてないよね?」
「大丈夫だって」


ぽんぽん、と私の頭を叩きながら宍戸は柔らかい笑みを浮かべ、心配するな、と言った。


「そうそう。有梨は自分の心配だけしてなよ」
「ごめん、不二」


不二がため息をつく。


「なかなか起きないんだもの」
「……私どれくらい寝てたの?」
「1週間くらいじゃない?」
「そ、今日で7日目」


仁王もため息をつく。
1週間……か……
私、いろんな人に心配かけたのかな……


「……ごめん、みんな。帰ってくるの遅くなって……」


俯いて、水の入った容器を握りしめる。
すると仁王がぐしゃぐしゃと私の頭を撫でた。


「全くだ。待たせやがって」
「めっちゃ心配したんやからな。四天宝寺のみんなもな」
「今日部活抜け出して来たんだからね」
「毎日毎日暇だったんだからな」


顔を上げると、言っている内容とは正反対に、皆の顔は笑顔だった。
私も自然と笑顔がこぼれた。


「……ありがとう」









その後、担当の医師が来て私の体を調べた。
(この間燐はベッドの下に隠れていました)

何も異常な所がないと、医師と看護婦は安心したように笑って出ていった。



そして改めて、私の座るベッドの周りに不二、宍戸、仁王、謙也、そして燐が椅子を持ってきて座った。

眠っていた燐は、まだ目を覚まさない。

私は何も言い出さない燐の名前を優しく呼んだ。


「燐」
「……わかってる。……全部、話すよ」

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