暁の空へ | ナノ


  131 一緒に


そこは暗闇だった。


目を開けたつもりだったけど、開けても閉じても暗闇だからよくわからない。


ここはどこなんだろう。


歩いてみる。
足が地面についている感覚がないから気持ち悪い。

声を出してみる。
出しているつもりでも、私に私の声は聞こえない。


私……生きてるのかな……?


ふと、そんな考えが浮かぶ。
何でそんな考えが浮かんだのかな、と考えてみると、答えはすぐに見つかった。


ああ、そうだ。
私、車に撥ねられたんだった。


自分でも驚くほどに冷静だった。
車に撥ねられて、生きているはずがない。


そうか、私、死んだのか。


死んだ、とわかった瞬間脳内を駆け巡るのは、くだらないことばかりだった。

最後にもう一回くらい生放送したかったな、とか
せめて主人公には会いたかったな、とか
あのアニメのグッズがもうすぐ発売されるのに、とか

人間、不思議とこういう時は冷静になれるらしい。
だってもう死んじゃってるもん。
何考えたって無駄なんだから。



五十嵐



ん……?

今、仁王の声が聞こえたような……



殺せない……



あれ、 今度は燐の声がした。



殺せるわけない……



燐……?


私は無意識に仁王の声じゃなく、燐の声に耳を傾けた。



こうやってまた……俺はひとりぼっちになるんだな



ひとりぼっち……?

燐、私がいるよ……っ!



姉ちゃんがあっちに帰れば、また、ただ流れる時を過ごす日々が、始まる……



何言ってるの、燐!



五十嵐!!



だんだん仁王の声が強くなってくる。


私は、死んだわけじゃないの……?

もしかして、仁王たちのいる世界へ戻ろうとしているの……?


……だったら、




だったら燐も一緒に行こう?




そろそろ、かな……姉ちゃん




ねぇ燐、聞こえないの?
貴方も一緒にこっちに来るの!


感覚のない手を必死に伸ばす。











こっちだ五十嵐





ばいばい、姉ちゃん







燐……っ!!!




















突然の浮遊感と共に、

感覚のない手が、何かを引きずり上げた。

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