4 アイデンティティー注意報
「まってまってまってやばいよこれ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」
「旭さんまだ乗ってもないっすよ!」
キャーという悲鳴が聞こえる。
ちょうどあと1、2組というとこまで来たところで、ジェットコースターのレールを見てしまった東峰は顔面を蒼白にしていた。
「だだだだだだって!あれ2回転くらいしてるんじゃない!?!?」
「してますね!」
「してるねぇ〜」
「すごく高いとこから落っこちてない!?!?」
「落ちてますね!」
「落ちてるねぇ〜」
「あんなの乗ったら死んじゃうよ!!!」
30分も並んだのに直前になって怖気づいている東峰と、それとは対照的にさらに目を輝かせている西谷に、松川は笑った。
しかしから黙っている金田一を見て、その笑顔は固まった。
東峰と同じように、いやそれ以上に顔面蒼白の、金田一を……
「!?どうした金田一具合でも悪いのか!?」
「い、いや……ちょっと近くで見たら高いなって……あはは」
さっきまでのはしゃぎようはどこへやら……金田一はジェットコースターを見てはブルブルと震えていた。
「あっ次っすよ!行きましょう!!」
「ヒイイイ……」
「まあ一瞬だし大丈夫だべ」
「だ、大丈夫すかね……」
*
ガタガタと、4人が乗ったジェットコースターが頂上へ登っていく。
「見てください旭さん!景色めっちゃいいですよ!」
「むりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむり」
「大丈夫か金田一〜」
「おちるおちるおちるおちるおちるおちるおちるおちるおちる」
前に見えていたレールが途切れた。
ヒュッと全員が息をのむ。
一拍置いた次の瞬間、遊園地内に野太い悲鳴が響き渡った。
*
――事件は、ジェットコースターから降りた後に起こった。
最後に降りてみんな荷物を持ったかどうか確認した松川は、驚きの光景を目にした……
「すみません松川さん……ちょっとトイレに寄っても……」
「……どちら様?」
「!?き、金田一です!!!!!」
「はっ!?!?お前……らっきょうはどうした!?!?!?」
松川がこう言うのも無理はない。
金田一のアイデンティティーであるあの髪形が、無残にも崩れ去り、ただのアシメスタイルになっていたのだから。
「あっこれでらっきょうって言われませんね!」
「その前に誰だかわかんねえよ!!おい東峰!西谷!……あれ?」
「あれ?どこ行ったんでしょう……」
「ここにいるよ……」
「
うわああああああああ!?!?!?!?」
飛び退いた金田一。
そこにいたのはペチャ西谷と、長い前髪の間からこちらを睨んでいる(つもりは本人にはないのだがこちらからはそう見える)東峰だった。
「に、西谷……身長縮んだ?」
「縮んでないっすよ!?!?!?」
「ゴム切れちゃって……」
「こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい」
「金田一落ち着け!!!」
唯一無事だったのは松川だけだった。
ジェットコースター伝説。
髪型がアイデンティティの奴は、気をつけろ。
その頃、お化け屋敷にも強烈な悲鳴が轟いていた……
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